「ぼく、おかいものしたい」
五歳になった藤也がそう言い出したのは、冬のある晩のことだった。
「何かほしいの?」
俺、須藤藤也が聞き返すと、藤也はテレビを指さす。
育児番組で、赤ん坊が風呂を嫌がっていた。
「ゆずかう」
「柚? ああ、冬至か。でも柚なら冷蔵庫にあったと思うけど」
「みおちゃんにあげる。あかちゃんが、ふろきらいにならないようにする」
「……なるほど?」
藤也の伯母、俺の妻の兄、瑞希の妻……澪さんは二人目を妊娠中だ。臨月にはまだ入っていないくらい。
生まれた赤ん坊が風呂嫌いにならないように、ゆず湯をしたいということかな。
「近いうちに瑞希が来るから、柚渡せば?」
「だめ。ぼくがかってわたす」
「じゃあ、次の休みに買いに行って、そのまま渡しに行こう」
「そうする」
数日後、藤也に帽子とマフラー手袋をつけて、一緒に近所のスーパーにやってきた。
「ゆず、いっぱいかう」
「そんなにいらないだろ」
「いる。みかんもかう」
「それは藤也が食べたいだけじゃん」
「かあさんが、かってくれない」
「一日で一袋食べちゃったからだろ」
柚を三つ持ってレジに向かうと、藤也は自分で買うという。
首から提げていた小銭入れから自分で払って柚を買っていた。
柚を大事そうに抱える藤也を乗せて、車を走らせる。
「よお、藤乃。藤也も」
瑞希の家、由紀農園の駐車場に車を停めたら、近くの温室にいた瑞希が顔を出した。
「みおちゃんいる?」
「家にいる」
「いってくる」
「なんつーか、かいがいしい男だな。藤乃そっくり」
「そうかなあ。どっちかっていうと瑞希だと思うけど」
軽口を叩いてから息子を追いかけた。
家に行くと瑞希のお袋さんが入れてくれて、澪さんと娘の花菜ちゃんのところに案内してもらった。
「みおちゃん、ゆずあげる」
「ありがとう、藤也くん」
「あかちゃんのおふろにいれてあげて」
「とーやくん、かなちゃんには?」
花菜ちゃんが手を出して澪さんに怒られた。
藤也は持っていた袋から結局買ったみかんを一つと、自分がまいていたマフラーを花菜ちゃんに渡した。
「暑いからあげる」
「ありあと。みかん、はんぶんこしよ」
「しない。あかちゃんとはんぶんこして」
「藤乃さん、マフラーはお返ししますので……」
困った顔の澪さんに、つい苦笑した。
「藤也、そのマフラーはいらないの?」
「暑いからいらない」
「ふうん。じゃあ、いいか。花菜ちゃん、そのマフラーいる?」
「すべりだいするときに、いる」
「澪さん、ご迷惑でなければ使ってください。藤也もいらないみたいだし」
「……そういうことなら。今度何かお返ししますね」
「お気になさらず。元気な赤ちゃんを産んでくれればそれで僕らは満足です」
藤也が柚を持ってきた理由を説明すると、澪さんは微笑んだ。
「ありがとう、藤也くん。産まれたら遊んであげてね」
「うん。さわっていい?」
「どうぞ」
藤也はそっと澪さんのお腹に手を伸ばして、すぐに引っ込めた。
「うごいた」
「柚、ありがとうって」
「そうなの……?」
藤也は花菜ちゃんと二人で澪さんのお腹を撫でて、あれこれ言っていた。
「藤也、そろそろお暇しようか」
「おいとま?」
「帰ろうかってこと。お邪魔しました」
「いえいえ、大したお構いもできませんで。お正月にはまたいらしてくださいね」
「とーやくん、つぎはカイトとコマもってきてね」
「わかった」
「花菜!」
父親の瑞希そっくりな花菜ちゃんに思わず笑いながら、家を出た。
瑞希に声をかけて車に戻る。
「藤也、マフラーは新しいの買う?」
「いらない。あついから」
「ないと、幼稚園に行くときに寒いだろ」
「ぼうしがあればへいき。みずきがくれたやつ」
「じゃあ、いいか」
シートベルトを確認してアクセルを踏んだ。
藤也は窓の外の瑞希に手を振っている。手袋と帽子は膝の上に乗ったままだけど、必要になれば自分でつけるんだろう。
五歳になった藤也がそう言い出したのは、冬のある晩のことだった。
「何かほしいの?」
俺、須藤藤也が聞き返すと、藤也はテレビを指さす。
育児番組で、赤ん坊が風呂を嫌がっていた。
「ゆずかう」
「柚? ああ、冬至か。でも柚なら冷蔵庫にあったと思うけど」
「みおちゃんにあげる。あかちゃんが、ふろきらいにならないようにする」
「……なるほど?」
藤也の伯母、俺の妻の兄、瑞希の妻……澪さんは二人目を妊娠中だ。臨月にはまだ入っていないくらい。
生まれた赤ん坊が風呂嫌いにならないように、ゆず湯をしたいということかな。
「近いうちに瑞希が来るから、柚渡せば?」
「だめ。ぼくがかってわたす」
「じゃあ、次の休みに買いに行って、そのまま渡しに行こう」
「そうする」
数日後、藤也に帽子とマフラー手袋をつけて、一緒に近所のスーパーにやってきた。
「ゆず、いっぱいかう」
「そんなにいらないだろ」
「いる。みかんもかう」
「それは藤也が食べたいだけじゃん」
「かあさんが、かってくれない」
「一日で一袋食べちゃったからだろ」
柚を三つ持ってレジに向かうと、藤也は自分で買うという。
首から提げていた小銭入れから自分で払って柚を買っていた。
柚を大事そうに抱える藤也を乗せて、車を走らせる。
「よお、藤乃。藤也も」
瑞希の家、由紀農園の駐車場に車を停めたら、近くの温室にいた瑞希が顔を出した。
「みおちゃんいる?」
「家にいる」
「いってくる」
「なんつーか、かいがいしい男だな。藤乃そっくり」
「そうかなあ。どっちかっていうと瑞希だと思うけど」
軽口を叩いてから息子を追いかけた。
家に行くと瑞希のお袋さんが入れてくれて、澪さんと娘の花菜ちゃんのところに案内してもらった。
「みおちゃん、ゆずあげる」
「ありがとう、藤也くん」
「あかちゃんのおふろにいれてあげて」
「とーやくん、かなちゃんには?」
花菜ちゃんが手を出して澪さんに怒られた。
藤也は持っていた袋から結局買ったみかんを一つと、自分がまいていたマフラーを花菜ちゃんに渡した。
「暑いからあげる」
「ありあと。みかん、はんぶんこしよ」
「しない。あかちゃんとはんぶんこして」
「藤乃さん、マフラーはお返ししますので……」
困った顔の澪さんに、つい苦笑した。
「藤也、そのマフラーはいらないの?」
「暑いからいらない」
「ふうん。じゃあ、いいか。花菜ちゃん、そのマフラーいる?」
「すべりだいするときに、いる」
「澪さん、ご迷惑でなければ使ってください。藤也もいらないみたいだし」
「……そういうことなら。今度何かお返ししますね」
「お気になさらず。元気な赤ちゃんを産んでくれればそれで僕らは満足です」
藤也が柚を持ってきた理由を説明すると、澪さんは微笑んだ。
「ありがとう、藤也くん。産まれたら遊んであげてね」
「うん。さわっていい?」
「どうぞ」
藤也はそっと澪さんのお腹に手を伸ばして、すぐに引っ込めた。
「うごいた」
「柚、ありがとうって」
「そうなの……?」
藤也は花菜ちゃんと二人で澪さんのお腹を撫でて、あれこれ言っていた。
「藤也、そろそろお暇しようか」
「おいとま?」
「帰ろうかってこと。お邪魔しました」
「いえいえ、大したお構いもできませんで。お正月にはまたいらしてくださいね」
「とーやくん、つぎはカイトとコマもってきてね」
「わかった」
「花菜!」
父親の瑞希そっくりな花菜ちゃんに思わず笑いながら、家を出た。
瑞希に声をかけて車に戻る。
「藤也、マフラーは新しいの買う?」
「いらない。あついから」
「ないと、幼稚園に行くときに寒いだろ」
「ぼうしがあればへいき。みずきがくれたやつ」
「じゃあ、いいか」
シートベルトを確認してアクセルを踏んだ。
藤也は窓の外の瑞希に手を振っている。手袋と帽子は膝の上に乗ったままだけど、必要になれば自分でつけるんだろう。



