季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい

 十二月も半ばの夕方。俺、須藤藤乃が花屋の裏口を開けると、誰もいなかった。


「んん?」


 ノックが聞こえた気がしたんだけど。


「ふじのくん、こんちわ」


 かわいい声が足元から聞こえて、見たら姪の花菜ちゃんが立っていた。


「こんにちは、花菜ちゃん。パパかママは?」

「パパが、あっちでおはな、はこんでた」

「じゃあ、花菜ちゃんは店で待ってようか」


 花菜ちゃんを花屋に入れて、裏口は開けておく。

 カウンターに座る息子の藤也の隣に、もう一つ椅子とお茶を出した。


「かなにも、みかんちょうだい」

「いいよ」


 藤也はカバンから新しいみかんを出して剥く。


「じぶんでする」

「むずかしいよ」

「できるよう」


 また新しいみかんが出てきた。むいた分は半分こしている。


「藤乃ー、頼まれてた花持ってきた。花菜は?」

「そこでみかん食べてる」

「悪いね、勝手に」


 台車を押してきた花農家の瑞希から花を受け取ると、頭に雪がついていた。


「雪降ってる?」

「ちらちら、くらいかな。すぐ止むだろ」

「ゆき!」

「ゆき!?」


 雪と聞いて、藤也と花菜ちゃんが走り出したけど、裏口から飛び出して、すぐにがっかりして立ち止まった。


「みずき、ゆきないよ」

「パパ、ゆきどこやったの」

「この辺はそうそう降らねえよ。せいぜい風花が舞う程度だな」

「おはな?」

「風花。風に舞ってひらひら降る雪を風花って呼ぶんだよ」


 俺が受け取った花を確認している間に瑞希と子供たちは空を見てあれこれ言っていた。


「とうやくん、かながゆきおんなになるまで、まっててねえ」

「まだ雪女諦めてなかったのかよ」

「ぼくはねえ、ロズレ○ドになる」

「……なにそれ」

「ポケ○ン。こんなちっちゃいのじゃなくて、そらから、たくさんはなをふらせる」

「降ってるのは花じゃなくて雪だからな?」


 困惑する瑞希をよそに、子供たちは風花を手に乗せたり、踊ったりしていた。


「瑞希、受領書くれ」

「はいはい」

「ふじのくん」

「ん?」


 書類にサインしていたら、花菜ちゃんが戻ってきた。


「ふじのくんにもおはなあげるね」


 渡されたのはどんぐりだった。ぽけっとに入っていたらしい。


「ありがとう」

「うん。ふじのくんはかわいいから、おはながにあうね」

「初めて言われたけど、ありがと」

「とうやくんはかわいくないから、にあわない」

「ふふ、そうなんだ」


 花菜ちゃんは瑞希に回収されて帰って行った。

 俺は身長が百八十を超えているし、もう四十近いおっさんなのに、かわいいなんて初めて言われた。

 しかも俺のかわいい息子は、二歳の女の子からするとかわいくないらしい。


「藤也、寒いから戻るよ」

「はーい」


 藤也は戻って、カウンターの上のみかんの皮を片付けている。手にはその辺で拾ったらしい枝と松の葉、松ぼっくりを持っていた。


「とうさん、あかいみ、ちょうだい」

「千両かな」


 店先に並べてあった赤い実のついた枝を渡すと、藤也は手にしていた松の葉と枝を合わせた。


「これに、さっきのかざはな? のっける」

「乗せても溶けちゃうから、綿をあげるよ」


 綿の実と、ついでに白と黄色の菊の花を渡したら、正月っぽいブーケになった。

 ……蛙の子は蛙らしい。

 明けたままのドアから風花が舞って、藤也の手元のブーケに散った。