季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい

「キャンドルスタンド~」


 そう声を真似ながら俺、須藤藤乃の母親が取り出したのは、ガラスの器だった。

 真ん中に空洞があって、ドーナツみたいな形をしている。


「ばあちゃん、それなにー?」


 店のカウンターでみかんを食べていた息子の藤也が、甲高い声を上げた。


「これは、キャンドルスタンド。真ん中にろうそくを立てるんだけど、周りに生花を浮かべて水盆みたいにできるんですって」

「へえ、耐熱ガラス?」


 俺が聞くと、母は頷いた。


「そうらしいけど、耐久性は分からないわね。いつもの花器屋さんが試作品をくれたのよ」

「ふうん。じゃあ見本のディスプレイ用かな」

「そうねえ。これ一つしかないし、まだちょっと売り物にはできないかな」

「おはないれるの?」

「そうなの。藤也がやってみてもいいわよ」

「やるー!」


 藤也は残っていたみかんを全部口に突っ込んで、椅子から飛び降りた。

 母親が倉庫からいくつか花を取ってきて藤也に渡す。


「先に、どういうふうにしたいか、この新聞紙の上に並べてみてね」

「んっとねー、クリスマスにする」

「あら、素敵。センスがあるわ」


 俺が作るブーケやアレンジメントにはめちゃくちゃ厳しかった母親だけど、孫には甘い。売り物じゃないからかもしれないけど。

 でも確かに、藤也が並べた配色は悪くなかった。

 赤、緑、白をバランスよく円になるように並べている。


「こう」

「いいじゃない。じゃあ同じように器に並べましょう」


 藤也は小さい手でガラスの器に花を並べていった。器の縁が丸いから、滑ったり動いたりして苦労していた。母親がカスミソウを追加して、隙間を埋めさせている。


「できた! かわいいでしょ」


 母親はエプロンのポケットからLEDキャンドルを取り出して藤也に渡した。


「うんうん、上手ねえ。これで真ん中にキャンドルを置いてね。はい、完成」


 キャンドルをつけても、明るいからよくわからない。

 でもなんとなくクリスマスっぽいし、子供がそれっぽい配色でいれただけなのに、なんとなくいい感じに見える。


「なかなかいいなあ」

「ねえ。実際に入れると、ますますいい感じね。写真撮って花器屋さんに送っておきましょう」

「水入れなくてもいいし、ジェルでもありかな」

「汚れるんじゃない?」

「そうだな。ポプリとかドライフラワーは?」

「それもありね」


 ともかく俺も藤也に花器を持たせて写真を撮った。花音ちゃんにも送って、店の宣伝用にも何枚か撮る。

 藤也は飽きたのか、花器を置くと


「じいちゃんのとこにいってくる」


 と店を出ていった。


 藤也の並べた花器は、そのままカウンターに展示した。

 たぶん俺も、息子にはわりと甘い。