昼過ぎ、飯にしようと畑から俺、由紀瑞希が家に帰ったら、テレビの前で娘がラップの芯片手に踊っていた。


「澪、花菜は何してんだ?」

「アナ雪ごっこです」

「なんて……?」

 妻曰く、ディズ○ープリンセスになりきって歌って踊っていたらしい。

 俺も昔、戦隊ごっことかしたし、そういうアレなんだろう。


「かなねえ、おおきくなったら、ゆきおんなになるの」

「雪女……」


 花菜が昼飯の煮込みうどんを、ふうふう食べながら言った。


「じゃっくふろすとでもいい」

「なんだそれ」

「ようせい。まどにね、しもをふらすの」

「なんて……?」

「絵本に出てきたんです。雪と氷の妖精らしいですよ」


 妻に聞いてもよくわからなかった。

 そういう、寒かったり冷たかったりするものになりたいのか?


「寒くねえ?」

「ゆきだるましたいし、すけーとしたい」

「あー、そういうのは楽しいな」

「きのう、たのしかった」


 スケートに連れて行ったのは先週だったけど、花菜はあれからずっと「きのうのスケートたのしかった」と言っていた。

 それだけ楽しんでくれたなら、また連れて行くかな。


「ゆきおんなになって、はたけをぜんぶ、すけーとにする」

「商売上がったりだな」

「あがる?」

「お花がぜーんぶ枯れちまうってこったな」

「それはこまる」

「だろ? あと、雪女になったら、そのうどんも食えねえんじゃねえかな。体が溶けちまう」

「じゃあ、やめる。おひめさまになる」


 手のひら返しの早さに、つい吹き出した。


「はは、頑張れ」

「かながおひめさまになったら、パパは、おしろに、おはなうえるひとね」

「まかせとけ」

「ママはおうひさまね」

「は? 他に王様がいるってことか? 許さねえよ」

「瑞希さん、大人気ないですよ」

「ダメなもんはダメだ!」


 澪と花菜が顔を見合わせて笑った。

 その顔がそっくりで、俺も釣られて、顔を緩めた。