「菊花ー、蓮乃ー、風呂入るよー」


 俺、須藤藤乃は双子の娘達に声をかけた。


「やだー」

「かあさんとー」


 二人はそろって、違うほうに逃げ出した。

 いつものことなので放っておいてパジャマやタオルを出す。


「菊花、蓮乃」

「かあさんは?」

「仕事」

「ぶー」

「お兄ちゃんの真似をするんじゃないよ。風呂行くよ。今日は入浴剤何を入れる日?」

「きっちゃんがいれるの!」

「はーちゃんがいれるの!」

「じゃあ先に服を脱いだ方。ヨーイドン」


 何ていうか、我ながら手馴れてきたと思う。

 最初は双子に慌てふためいていたけど、目の前にいるんだから、やるしかない。

 ……と、妻の花音ちゃんに何度となく言われて、俺はなんとかここまでやってきた。


 と言っても双子の相手はまだ二年だし、長男の藤也とだって五年しか一緒にいないのだ。

 だから、手馴れてきたとか完全に気のせい。


 双子を追いかけて風呂に向かったら、浴室の洗い場に入浴剤が一缶ぶちまけられていた。

 俺を見て、気まずそうに顔を見合わせる双子の前に膝をついた。


「菊花、蓮乃」

「は、はーちゃんが!」

「きっちゃんでしょ!?」

「お父さんは、何て言いましたか?」

 双子は手をつないで、唇を尖らせて俯いていた。

 靴下も服の袖も濡れている。


「先に服を脱いだほうが入れていいって言いましたよ?」

「……ごめんなさい」

「……ごめんなさい」

「はい、そしたらまずは服を脱ごう。そのままじゃ流せないから。あ、待って、濡れてるから、靴下脱いで」


 浴室で服を脱がせて洗濯機に放り込んだ。自分も脱いでシャワーで床を流していく。


「あきかんちょうだい」

「喧嘩しないならね」

「するけど、ちょうだい」

「喧嘩しないように努力してくれ」


 入浴剤の空き缶を奪い合って喧嘩する双子をサクサク洗って湯船に入れる。

 自分も洗って浸かると、やっと一息ついた。

 双子は風呂のおもちゃを延々と取り合っている。

 ここに藤也が混ざると収拾がつかないから、もう子供らをまとめて風呂に入れるのは諦めた。

 ……のに、脱衣所に小さな影が見えた。


「おとーさーん、ぼくもはいるー」

「ばあちゃんは?」

「ゆびきって、じいちゃんがばんそこーしてる」

「指くらい切るだろ……。自分で服脱げる?」

「できるよ! おにいちゃんだから」


 しばらくしたら、


「たすけてー、もうぬげないになったー」


 と騒ぐから湯船から出て、服を脱がしてやる。

 花音ちゃんが顔を出したから双子を風呂から出そうとしたら、


「やだー」

「まだはいるー」


 これも毎日のことだ。

 入らないと騒ぎ、出ないと騒ぎ。

 まあ、いいんだけどさ。

 風呂に入っても休んだ気なんてしないし、自分の体を吹くのだって一苦労だけど。


 子供たちが「おとーさーん」と呼ぶなら、俺は「はいはい」と駆け寄って、助けてしまうのだろう。