三人分の食器を片付けたところで親父が「さすがに腕が痺れてきた」と根を上げたので、藤也を受け取って二階のベビーベッドに寝かせた。

 花音ちゃんはスヤスヤと眠っている。

 うーん。花音ちゃんと藤也が並んで寝ているのを見ると、胸がいっぱいになって、泣きそう。たぶんアルファ波とか出てる。



 夕方、納品に来た瑞希が、家にも顔を出した。


「よーう。花音と藤也が戻ってるって聞いたから見に来た。これ、うちの親と澪から差し入れ」

「サンキュ」


 受け取った紙袋には赤ん坊用のボディクリームと、花音ちゃん用らしいハンドクリーム、あとなんか高そうなタオル。


「お袋が、産後はめちゃくちゃ手荒れしたっつって。あと赤ん坊は意外と乾燥するからってさ。タオルは澪の趣味。ふわふわとかふかふかとか好きだから」

「ありがと。瑞希はガチガチとかムチムチなのにね」

「うるせえな。俺は心がふわふわなんだよ」

「へえ……知らなかった……」

「馬鹿、引くんじゃねえよ。あ、花音」


 振り向いたら花音ちゃんが欠伸をしながら階段を降りてきた。


「お兄ちゃんがうるさいから目が覚めた」

「お袋と澪から差し入れ持ってきてやったんだっつうの」

「ありがとう。お兄ちゃん大好き」

「へいへい、藤也は?」

「寝てるよ。見てく?」

「寝てるならいいや。見世物でもねえしな」

「俺、瑞希のそういうところ好きだよ」

「だろ? じゃあまたな」

「ありがとね、お兄ちゃん」


 瑞希を見送って、花音ちゃんは紙袋を覗き込んで歓声をあげた。ボディクリームとハンドクリームがすごくいいブランドだったらしい。

 二階から、微かに声が聞こえた。

 花音ちゃんの顔が、一瞬で妹から母親になる。


「はいはーい」


 俺は一階で粉ミルクを用意して二階に向かった。母乳を飲みおえた藤也を、花音ちゃんが俺に差し出す。


「ミルクを上げてください、お父さん」

「うん」


 藤也がぽやっと俺を見上げた。

 哺乳瓶を咥えさせると見た目よりもずっと強い力で吸われる。

 なんていうか、生きてるって感じ。


「たくさん飲んで食べて、大きくなって」


 思わずそう言うと、花音ちゃんが微笑んだ。


「藤乃くん、すっかりお父さんですね」

「そうかな。花音ちゃんがお母さんの顔をしてたから、俺も頑張らないとって思ったんだ」

「うん。一緒に頑張ろう」


 飲み終えた藤也を抱え直してゲップをさせた。

 小さな手が俺にしがみついていて、泣き虫な俺はやっぱり泣きそになっていた。

 たくさん飲んで食べて、大きくなって。

 君が元気に大きくなるのを、俺は、俺達は楽しみにしてる。