家について、花音ちゃんが藤也を抱っこした。俺は荷物を抱えて先に玄関の扉を開ける。
親父がばたばた出てきた。
「おかえり、花音ちゃん。おい藤乃。藤也にはなんて言えばいいんだ。ようこそ……?」
「何だろう? ようこそでいいんじゃない?」
俺と親父のバカなやり取りに花音ちゃんは笑って、藤也を差し出した。
「お義父さん、藤也を抱っこしててもらえますか」
「えっ、いいの?」
「はい。私、手を洗ってきます。その後はリビングの藤也の寝床と、二階のベッドも確認したいです。藤乃さんは手を洗って荷物を片付けてください」
花音ちゃんはテキパキと指示を出して洗面所に行ってしまった。
「よろしく親父」
俺もその後を追って手を洗う。
今日はじいさんはお得意様のところに仕事に行ってるし、母親とばあさんで花屋に出ているから家のことは親父が担当だ。
荷解きを終えて二階に上がると花音ちゃんが寝室にいた。ベビーベッドの掛ふとんをたたんでいる。
「花音ちゃん、荷解き終わったよ」
「ありがとう、藤乃くん」
「どういたしまして。お疲れさま」
腕を広げると、花音ちゃんの顔がくしゃっと歪んだ。
ヨタヨタと胸に収まったので、少し強めに抱きしめる。
「お疲れさま、花音ちゃん」
「……寂しかった」
「うん。俺も寂しかった」
肩を震わせる花音ちゃんが満足するまで抱きしめた。俺は全然物足りないけど、藤也を親父に預けっぱなしにはできないし。
「藤也の様子を見てくるから、花音ちゃんは休んでて」
「うん。泣いてたら教えて。ミルクあげるから。でも藤乃くんが迎えに来る直前に飲んでるから、たぶん大丈夫」
「わかった」
花音ちゃんはふわふわと欠伸をしてベッドに横になった。
少しだけキスして部屋を出た。
家に花音ちゃんがいるのが嬉しくて、浮かれそう。たぶんちょっと浮かれてる。
親父は結婚して三十年以上経つけれど、未だに「桐子さんが家にいるなんて、なんて幸せなんだろう」と言っていて、俺もたぶんあと三十年経っても同じことを言って藤也に呆れられるんだろう。
リビングに行くと親父がソファで藤也を抱っこしていた。
「おい、寝ちゃったんだけど、ここからどうしたらいいんだ」
親父がヒソヒソと話しかけてきた。
「そこの布団に下ろせば?」
「起きちまわねえかな」
「さあ? 起きたら、また抱っこすればいいよ」
「せっかく寝てるのにさ」
「じゃあ抱っこしてなよ」
「何をしているのよ」
うだうだ言い合ってたら母さんが帰ってきた。昼を食べに来たらしい。
「お帰りなさい、桐子さん。台所に昼飯あるよ」
「ありがとう。藤乃もお帰りなさい。花音ちゃんは?」
「疲れたからって休んでる」
「病院のベッドって硬くて寝た気しないものね。藤也は寝ちゃってるのね。ふふ、おじいちゃんの抱っこに安心したのかしら。藤乃もあなたが抱っこするとすぐ寝たものね」
母さんは笑って昼を食べに行った。
俺の昼飯もあるというから、ありがたくいただこう。
親父は母親のセリフに気を良くして、ニコニコしながら藤也を抱っこしていた。
「父親のほうが、赤ん坊はよく寝るらしいわね」
「そうなん?」
昼を食べていたら母親が言った。
「ええ。母乳の匂いがしないから。小腹が空いたときに焼き肉の匂いがしたら寝られないでしょ」
「たしかに」
「安定感もあるしね」
さっさと食べて、母親はばあさんと交代する。戻ってきたばあさんも母親と同じようなことを言った。
「藤乃も小春に抱っこされるところっと寝たし、小春もじいさんが抱っこするとすぐ寝てたわね」
ばあさんも、さっさと昼を済ませて藤也をニコニコ眺めて店に戻った。そもそもがばあさんの趣味で始めた店だから、また携われるのが楽しくて仕方ないらしい。
「しかも責任があんまりない。あー、楽しい」
ということだ。
親父がばたばた出てきた。
「おかえり、花音ちゃん。おい藤乃。藤也にはなんて言えばいいんだ。ようこそ……?」
「何だろう? ようこそでいいんじゃない?」
俺と親父のバカなやり取りに花音ちゃんは笑って、藤也を差し出した。
「お義父さん、藤也を抱っこしててもらえますか」
「えっ、いいの?」
「はい。私、手を洗ってきます。その後はリビングの藤也の寝床と、二階のベッドも確認したいです。藤乃さんは手を洗って荷物を片付けてください」
花音ちゃんはテキパキと指示を出して洗面所に行ってしまった。
「よろしく親父」
俺もその後を追って手を洗う。
今日はじいさんはお得意様のところに仕事に行ってるし、母親とばあさんで花屋に出ているから家のことは親父が担当だ。
荷解きを終えて二階に上がると花音ちゃんが寝室にいた。ベビーベッドの掛ふとんをたたんでいる。
「花音ちゃん、荷解き終わったよ」
「ありがとう、藤乃くん」
「どういたしまして。お疲れさま」
腕を広げると、花音ちゃんの顔がくしゃっと歪んだ。
ヨタヨタと胸に収まったので、少し強めに抱きしめる。
「お疲れさま、花音ちゃん」
「……寂しかった」
「うん。俺も寂しかった」
肩を震わせる花音ちゃんが満足するまで抱きしめた。俺は全然物足りないけど、藤也を親父に預けっぱなしにはできないし。
「藤也の様子を見てくるから、花音ちゃんは休んでて」
「うん。泣いてたら教えて。ミルクあげるから。でも藤乃くんが迎えに来る直前に飲んでるから、たぶん大丈夫」
「わかった」
花音ちゃんはふわふわと欠伸をしてベッドに横になった。
少しだけキスして部屋を出た。
家に花音ちゃんがいるのが嬉しくて、浮かれそう。たぶんちょっと浮かれてる。
親父は結婚して三十年以上経つけれど、未だに「桐子さんが家にいるなんて、なんて幸せなんだろう」と言っていて、俺もたぶんあと三十年経っても同じことを言って藤也に呆れられるんだろう。
リビングに行くと親父がソファで藤也を抱っこしていた。
「おい、寝ちゃったんだけど、ここからどうしたらいいんだ」
親父がヒソヒソと話しかけてきた。
「そこの布団に下ろせば?」
「起きちまわねえかな」
「さあ? 起きたら、また抱っこすればいいよ」
「せっかく寝てるのにさ」
「じゃあ抱っこしてなよ」
「何をしているのよ」
うだうだ言い合ってたら母さんが帰ってきた。昼を食べに来たらしい。
「お帰りなさい、桐子さん。台所に昼飯あるよ」
「ありがとう。藤乃もお帰りなさい。花音ちゃんは?」
「疲れたからって休んでる」
「病院のベッドって硬くて寝た気しないものね。藤也は寝ちゃってるのね。ふふ、おじいちゃんの抱っこに安心したのかしら。藤乃もあなたが抱っこするとすぐ寝たものね」
母さんは笑って昼を食べに行った。
俺の昼飯もあるというから、ありがたくいただこう。
親父は母親のセリフに気を良くして、ニコニコしながら藤也を抱っこしていた。
「父親のほうが、赤ん坊はよく寝るらしいわね」
「そうなん?」
昼を食べていたら母親が言った。
「ええ。母乳の匂いがしないから。小腹が空いたときに焼き肉の匂いがしたら寝られないでしょ」
「たしかに」
「安定感もあるしね」
さっさと食べて、母親はばあさんと交代する。戻ってきたばあさんも母親と同じようなことを言った。
「藤乃も小春に抱っこされるところっと寝たし、小春もじいさんが抱っこするとすぐ寝てたわね」
ばあさんも、さっさと昼を済ませて藤也をニコニコ眺めて店に戻った。そもそもがばあさんの趣味で始めた店だから、また携われるのが楽しくて仕方ないらしい。
「しかも責任があんまりない。あー、楽しい」
ということだ。



