数時間後、店を閉めて客先から帰ってきたじいさんも一緒に病院に向かった。

 親父と母親は新生児室へ、じいさんばあさんは俺と花音ちゃんのところへ向かう。


「お疲れさまでした、花音ちゃん。しばらくは病院でゆっくり休んでね」

「はい、ありがとうございます」

「写真見せてもらったけど、藤乃そっくりだな。笑っちゃったよ」

「ふふ、私も笑っちゃいました。お義母さんに見せてもらった、藤乃さんが赤ちゃんのときの写真と同じ顔でしたね」


 いつの間にそんなものを見たんだろう。

 花音ちゃんはときどき、俺ですら知らない家のことを知っていたりする。

 しばらくして母親が病室に来た。


「親父は?」

「新生児室の前で泣いてるわ」


 母親が笑って肩をすくめた。


「なんで……?」

「あなたにそっくりだから、感極まっちゃったんでしょ」

「しょうのない息子だこと」


 ばあさんも笑って、じいさんを立たせた。


「私たちもひ孫を見に行きましょうかね」

「そんなに藤乃に似てるのか。そりゃ、楽しみだ」


 母さんに椅子を勧めて、俺は買っておいたお茶を紙コップに入れる。

 すぐにやってきた親父はおいおい泣いていた。


「泣きすぎだろ」

「仕方ねえだろ。あんなちっちゃいのに生きてるんだぞ。桐子さんが藤乃を産んだ日のことを思い出したら、俺はもうダメだ。桐子さん、息子を産んでくれてありがとうね……」

「三十年以上前のことですよ。今日頑張ったのは花音ちゃんです。ごめんなさいね、花音ちゃん。この人感極まるとダメだから」

「ふふ、大丈夫です。たぶん藤乃さんの三十年後もこうだと思います」

「想像がつくわ……。とにかく、花音ちゃん。お疲れまでした。病院にいる間にしっかり休んでね。退院したら、なかなかゆっくりできないから」

「ありがとうございます、お義母さん」


 母親が花音ちゃんをねぎらっている間に親父も泣き止んで、茶を一気飲みした。


「由紀が子供のランドセル買いたいって言ってたんだけど、俺も一緒に選びたいよ」

「子供と三人で選んでください」

「そうしようかなあ。花音ちゃん、本当にお疲れさまでした。至らない息子だけど、今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ。藤乃さん、出産の間ずっと手を握っててくれましたよ」

「それしかできないからね」

「小春さんは横でずっと号泣してたから、それよりマシだわ。さ、長居しても迷惑だからもう一度赤ん坊を見て帰りましょう」


 また泣きそうになってる親父を連れて、母親が病室から出て行った。


「そろそろ面会時間が終わりだから、俺も帰るね。花音ちゃん、ゆっくり休んでて」

「……藤乃さんがいないと寂しくて休めないです」

「俺もそうだよ。たぶんベッドの隅で一人でメソメソして寝られないと思う。でも寝ないとね。眠くて赤ん坊を落っことすわけにはいかないから。明日は瑞希と澪さんと一緒に来るね」

「はい、お待ちしてます」


 最後にもう一度花音ちゃんを抱きしめて病室を出た。

 新生児室の窓に張り付いている両親とじいさんばあさんを連れて、帰宅する。

 予想通り一人のベッドは広すぎて泣きたかったけど、来週には花音ちゃんは帰ってくるし、並べてあるベビーベッドにも赤ん坊がやってくるから、ちゃんと寝た。