季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい

「うちの子はどうしてましたか?」

「あくびしてた」

「私も疲れちゃいました。えっと、手続きがいろいろあると思うんですけど」

「じゃあ、俺は一度帰ってまとめておくよ。夜にまたうちの親を連れて戻るから」

「わかりました。私も必要な手続きについて、聞けたら確認しておきます。……藤乃くん、お父さんの自覚はわいた?」

「わかんないな」


 花音ちゃんにごまかしなんてきかないから、素直に答える。


「でも赤ん坊が何人か寝てたけど、一人だけ見分けがつくから、あの子がうちの子だってのはわかるよ」

「じゃあ大丈夫。一緒にお父さんになり、お母さんになろう」

「……花音ちゃんと結婚してよかった」

「それは私も。藤乃くん、これからもよろしくね」

「うん、至らない俺ですが、よろしくお願いします」


 少しだけ花音ちゃんを抱きしめて病室を後にした。

 家に帰ると親父があたふたしていた。


「何してんの?」

「お、藤乃!? 花音ちゃんについてなくてよかったのか?」

「疲れたから寝るって言うから出てきた。申請に必要な書類を確認したしたいし」

「そんなもん、産まれる前にしとけよ!」

「したよ。病院から事前にもらった書類とあと印鑑持って行けばいいはず。母さんが店閉めたら、一緒に行くだろ?」

「行く! あ、由紀は?」

「さっき来てた。ランドセル買うってさ」

「は? 俺が買うけど? 抜け駆けかよ!」


 親父は顔をしかめてスマホを取り出した。

 由紀さんに電話をかけて騒いでいるから、放っておいて書類をカバンに入れて、花屋に顔を出す。


「あら、帰ってきてよかったの?」

「写真見せてちょうだいな」


 母さんとばあさんが同時に寄ってきた。

 スマホを渡して、店のエプロンをつける。


「私とお義母さんでやるから、別にいいわよ」

「何かしてないと落ち着かないんだよ」

「あら、藤乃そっくり」

「ほんとですねえ。コピーみたい」

「そのうち小春みたいになるのかしら」

「なるかもしませんね……」


 母さんとばあさんは好き勝手言いながら写真を見ている。

 俺は店先を掃除して、減っていた花を補充した。

 お客さんにミニブーケを勧めて、ラッピングをおまけする。


「そういえば、名前って決めたの?」

「いくつか候補は上げてあるよ。子供を実際に抱っこできるのが明日以降だから、実際に見て決める」

「そう。楽しみねえ」

「……ちなみに小春は、小春日和に産まれたから小春なのよ」


 ふとばあさんがスマホを見つめながら言った。


「知ってる。単純だけど、似合うからなあ、親父に」

「ねえ、素敵な名前ですよ、小春さん」


 本人は「女みたいな名前だよな」と酒が入ったときにぼやいていたけど、でも母親が呼ぶと嬉しそうにするから、そんなに嫌ってるわけじゃなさそうだ。



 ……俺の名前も女っぽいけど、これは親父が決めた名なのだと、いつだったかに酔っ払った親父から聞いた。


「俺の小春って名前は女っぽいし、からかわれることもあるけど、それでも桐子さんが呼んでくれるから嫌いじゃない。だから藤乃も、名前を呼ばれるだけで自分を好きになれるような、そんな相手に会えるといいなあ」


 その親父の願いは叶っていて、花音ちゃんが笑顔で俺の名前を呼んでくれるから、俺は俺のことが許せるし、好きでいられる。
 じゃあ、息子の名前はどうしようか。