息子が生まれたのは、六月の雨の日だった。


 朝からしとしとと静かに雨が降っていて、花音ちゃんは


「雨のいい匂いがする」


 なんて言って、大きくなったお腹をさすりながら縁側に座っていた。

 俺は市場から戻ったところで、濡れた頭を拭きながら今日の仕事のことを考えていた。けど、気がついたら花音ちゃんが俺を見上げて目を丸くしていた。


「花音ちゃん?」

「藤乃さん、お腹痛いです」

「え? 病院行く?」

「いえ……これ、あれです。たぶん陣痛です」

「え、待って、車っ」

「いえ、まだ間隔が開いてるからまだだと思います。あの、お義母さんかお祖母さんを呼んでください。私は一応病院に連絡しますから」

「わかった、すぐ呼ぶ、あいたっ」



 こけつまろびつ、という言葉がふと思い浮かぶ。
 それくらい俺は慌てふためいて、母親と、家のことを頼むために一時的に戻ってきていた祖母を呼びに走った。