一通り見て、夕方になる前に宿に向かった。

 チェックインは藤乃に任せて、俺と澪と花音で荷物運ぶ……はずが、花音が澪連れて土産見に行っちまったから、結局一人で運んだ。

 まあいいけどさ。あの二人が戦力になるなんて思っちゃいねえし。

 全員分運んでからソファで茶を飲んでたら、ルームキーを持った藤乃が戻ってきた。


「お待たせ。花音ちゃんと澪さんは?」

「あっちで土産見てる」

「そう。二人が楽しんでくれてるならいいんだ」

「俺は?」

「瑞希は自分で勝手に楽しめばいいよ」

「ウザ」


 ルームキーと交換で藤乃に荷物を半分持たせて立ち上がる。

 花音が澪を連れて戻ってきた。


「じゃあ、行こうか」


 俺らと藤乃たちの部屋は横並びになっている。

 入り口で分かれて澪と部屋へ。


「わ、眺めがすごいです!」

「おお、絶景だな」


 足元を河が音立てて流れていて、遠くに山並みが連なってる。

 露天風呂がついていて、この眺めの中で入ったら気持ちよさそうだ。


「この後って、お夕飯まで予定ないですよね」

「うん。風呂入る?」

「お夕飯に浴衣は……あ、館内着と寝間着と二種類あるんですね」

「じゃあ、問題ねえな。あとは」


 言いかけたとこで変な音がした。

 見回すと、隣の部屋の壁の方からかすかにこつこつ聞こえる。

 ああ、そういうことか。

 音がする壁を叩き返すとスマホが震えた。


『俺の声聞こえる?』

「全然」

『サンキュ』

「こちらこそ」


 つまり、澪が声を出しても問題なし。

 まあ、風呂の方はわかんねえから押さえさせた方が無難だな。


「あの、なんですか……?」

「音漏れしないか確認してた」

「はあ……?」

「この壁、けっこう厚いらしくて声が響かねえんだ」

「えっと?」

「つまり、お前は声を押さえなくていい」

「瑞希さん、須藤さんとのたったあれだけのやりとりで、そこまでわかったんですか……」


 呆れ顔の澪にニヤッと笑った。


「伊達に三十年幼馴染みやってねえんだ。風呂行こうぜ。風呂は響くかわかんねえから、声押さえろよ」

「声が出るようなことしなければいいじゃないですか!」

「そうはいかねえだろ」

「えー仕方ないですね……」

「声が出ねえように塞いでやるから安心しとけよ」

「安心?」


 澪は顔を赤くしつつ、荷物を開けて風呂の支度をしている。

 言い出したのは俺だけど、チョロすぎて逆に不安になる……。


 露天風呂を満喫してから館内着を羽織った。

 俺には微妙に小さいけど、澪には大きくて肩が落ちていた。

 藤乃を飯に誘って部屋を出た。


「飯の後、瑞希は部屋風呂と大浴場どっちにする?」


 顔を見るなり藤乃が聞いてきたから、振り向いて澪を呼ぶ。


「澪、お前はどっちがいい?」

「大浴場がいいです」

「即答かよ、ウケる」

「大浴場が、いいです」

「わかったって。部屋風呂はまた明日の朝にしよう」


 明日は十時チェックアウトだから、風呂の後も時間はある。

 とにかく飯だ。

 午後いっぱい運転してて、腹減った。