「おい、今日の午後空いてるだろ?」


 藤乃と電話をした数日後、朝飯を片付ける澪に声をかけた。


「はい、今日の午後はお休みをいただいています。何かご用ですか?」

「ちょっと出かけるから、そのつもりでいろ。つっても、お前はなんの用意もしなくていい。俺が車出すし」

「わかりました……?」


 不思議そうにする澪の頭を撫でて、畑に向かった。



 昼飯の後、親に澪と出かけると声をかけて家を出た。

 車に乗り込むと、澪はこてっと首をかしげる。


「どこに行くんですか?」

「いいとこ」

「いいとこ……?」

「着いてからのお楽しみ」

「……瑞希さん、ときどき言い回しがかわいいですよね」

「そうかあ?」


 しばらく走って、目的地に着いた。

 駐車場に目隠しがついてる。

 そういや車で来るのは始めてだ。


「……瑞希さん、ここって」

「うん」
「あの、えっと……」

「うわ、システムすげえ変わってる。でもこっちのが楽でいいな」


 一番高い部屋を選ぶ。

 安いとこだとイタズラされてたりすんだよな。

 つっても、ここらで一番高いとこにしたから、馬鹿な学生はそういないだろうけど。


 ソワソワしてる澪を引っぱって部屋に入った。


「よし」

「よ、よくないです!」

「よくなかった?」

「あ、あの、ここって、あれですよね」

「うん。ラブホ」

「なぜ……?」

「お前さ、声出さねえから」

「……??」


 澪が「意味が分からない」って顔で黙って俺を見上げてきた。

 ぐだぐだ説明すんのも面倒で、手を引いてだだっ広いベッドに座らせた。


「とりあえず脱げ」

「えっ、あっ?」

「澪、家だと声出さねえだろ」

「声、ですか?」


 困った顔のまま、澪はおとなしく脱がされてる。

 まあ、いつものことだしな。


「うん。親がいるから我慢してんのかと思って」

「そういうわけでは……。あの、恥ずかしいので」

「なにが?」

「……訳が分からなくなってる声を聞かれるのが」

「ふうん」


 なるほど。

 つまり、普段はまだ理性残ってたんだな。

 
「わかった。じゃあ、我慢できなくなるくらい、気持ちよくしてやるから、覚悟しとけよ」

「えっ」


 時計を確認する。

 晩飯も食ってくると言ってあるから、あと七時間はある。

 かわいい嫁さんに満足してもらえるよう、たっぷり頑張るか。




「ひどい目にあました……」


 事後、ぐったりしてる澪抱えて風呂にきた。

 家のも広いけど、これはこれで広くていい。

 出た後、掃除しなくていいのが特にいい。

 澪をざっと流して、後ろから抱えて湯船に浸かった。


「また来よう」

「……あの、たまにでお願いします。しょっちゅうだと、死んじゃいます。喉も痛いですし」

「かわいかったけど」

「そ、そういう問題じゃないです……! 瑞希さん、こういうとこ、よく来るんですか? あ、いえ、すみません、無しで」

「いや、いいけどさ」


 赤くなってる澪の首筋に噛みついた。

 いや、ここは見えるから痕残しちゃ駄目だ。

 もうちょい下にしよ。

 澪の背中は白くて綺麗で、痕を残すと映える。


「えっと、俺今いくつだっけ? たぶん、最後に来たのが十……二、三年前、かな」

「大分前ですね」

「うん。高校卒業前が最後だったと思う。だからシステム変わってて驚いた」

「……そうですか」

「あ、でも風呂は初めてだ。思ってたより広いな」

「そうなんですか?」

「うん。言っとくけど、俺、事後に寝落ちしたのもお前が初めてだからな」


 ……だから余計に、初めての時に朝いなかったのはショックだった。

 でも、それ以降は必ず朝、腕の中にいるようになったから、まあいい。

 あと痕を残すのも澪が初めてだけど、黙ってる。


「そうでしたか……」

「だからまあ、前のことで嫌な気分になってほしくねえってだけだ」

「すみません。そういうつもりじゃなかったんですけど。その、慣れてるなーって思っただけで」

「慣れてるってより、澪の反応がかわいくてついヤリすぎんだよ」

「それはほどほどにしてください」


 真顔で怒られた。

 最近、たまにそういうときがある。

 影薄くて消えそうだった澪が、今ははっきり見えるようになったのが嬉しいから、そういう時はちゃんと謝る。

 確実に俺が悪いし。


「すまん。気をつける」


 たぶん無理だけど。

 さっきも、初めて聞いた声がかわいくて、もっと聞きたくてやり過ぎた。

 ……だから、また連れて来よう。

 天蓋ベッドあるラブホとか、温泉付きとか、プール付きもあるらしいし。

 プラネタリウムがあるラブホもあるらしいけど、ちょっと遠いからな。


「澪」

「はあい」

「晩飯、何がいい?」


 澪がパッと笑顔で振り向いた。


「ノスバーガー、行ってみたいです」

「そんなんでいいのか?」

「先日、お義母さんに初めてナクドナルドに連れて行ってもらいまして」

「……マジか。よし、ノスにしよ。好きなだけ食え」

「はい!」


 嬉しそうにする澪を抱え直した。

 高校の時に散々女遊びをしてた俺は、今さらだけど澪と青春をやり直してるみたいで、腕の中の彼女を初恋みたいに大事に抱え直す。