ロマンスに、キス




文化祭の準備期間が始まった。

毎年のことだけど、この時期になると、つい「もうそんな季節か」と思ってしまう。
去年も、同じことを思った気がする。
季節は毎年同じように巡るのに、心の中でふと立ち止まってしまうのは不思議だ。

今年、あたしのクラスは――
メイド・執事カフェ。


天使の柏谷さんは、本来なら自らホールに立つタイプじゃない。
自ら、ね。
謙虚で、控えめで、目立つことは好まない。


だから当然、希望用紙にも「裏方」と書いた。
メニュー作り、飾りつけ、案内係……
誰かに見せる必要のない裏方の仕事のほうが、落ち着くし、気楽だから。


でも、そうは言っても、心のどこかで思っていた。
――多分、誰かが「メイドしてほしい」って言ってくる。

そして案の定、話し合いのとき、クラスの女子のひとりが勢いよく手を挙げて言った。



「柏谷さんのメイド、見たいです!」



――さすが、あたし。
思わず胸の奥で小さくガッツポーズをしたくなる。

一生に一度くらい、メイド服を着てみたい。
裏方を押し通すほどの強い理由も、正直ない。

こうして周りが推薦してくれるほうが、
――いい子に見えるチャンスが増える。



「え~、あたし、似合わないよ~」



笑いながら、首をかしげてみせる。
口角だけをほんの少し上げて、自然な仕草で笑う。
その瞬間、クラスメイトたちはさらに目を輝かせる。


みんなの期待に応えてあげる“天使の柏谷さん”を、文化祭くらい見せてあげてもいい。