ロマンスに、キス




映画館を出ると、佐野が「喉乾いた」ってうるさいので、目の前のカフェに入ることにした。


「ドリンク買って映画観れば?」って言いかけたけど、佐野が先に「映画中に飲み食いするの嫌なんだよ」と言った。考えてること読まれたみたいで、ムカつく。


カフェでは、適当にブラックコーヒーをふたつ。
普通のデートだったら、カフェラテとかココアとか頼んでるだろうけど、別に今日はいい。佐野相手だし。



「お前、あれなんなの?」



ストローをくるくる回しながら佐野が言う。

主語がない男。あれって、何。



「あれって?」

「ホラー苦手でもないのに、くっついてくんな」

「苦手だもん」

「嘘つくなよ。途中から普通に見てただろーが」



何でバレてんの。



「ホラー好きだけど悪い?」

「悪くねーよ」



佐野はそう言いながら、コーヒーを口に運ぶ。
その横顔は、やっぱり無表情で、何を考えてるのか分からない。

ほんと、腹立つ。 せっかく仕掛けた“天使の演技”も、全部見抜かれてるみたいで。 この男には、嘘も計算も通じない。でも、だからこそ余計に悔しい。 落とせない相手なんて、今までいなかったのに。