ロマンスに、キス




映画のチケットは、佐野が買ってくれた。男らしいとこあるじゃん、なんて一瞬思ったけど、「あとでネチネチ言われんのだるい」って、平気で言ってくる。


この男、ほんと気に食わない。あたしと映画観られることを、少しは光栄に思ってほしい。
「ありがとっ」そう言ってニコッとしておいたら、 「キモい」なんて返ってきた。最低男。


佐野は、予告もちゃんと見たい派らしい。それは、あたしも同じ。だから、上映時間の十分前に入って、佐野の左に座った。


席はわりと空いてたし、ど真ん中を取れた。照明が落ちて、館内がゆっくり暗くなる。


スクリーンの光だけが頼りで、佐野の横顔が少しだけ浮かんだ。あたしと佐野の距離は、近い。というか、席の幅のせいで勝手に近くなる。


普通こういうときって、気まずさを避けようとして、ちょっとだけ身体を逆に寄せたりしない? なのに佐野は、全く動かない。堂々と真っ直ぐスクリーンを見て、肩がほんの少し触れてる。


――佐野、距離感って知ってる?


スクリーンの光に照らされる横顔が、やけに鮮明で。その無神経さに苛立ちながらも、視線を逸らせない自分が悔しい。