ロマンスに、キス




でも――ふと、いい案が浮かぶ。

天使の柏谷さん、発動。
か弱くて守ってあげたくなる女の子を演じれば、こいつみたいな単純男なんて、すぐ転がせる。それで好きにさせて、頃合い見て、こっぴどく振ってやればいい。復讐ってほどじゃないけど、一度くらい痛い目見せてやるのも悪くない。



「いいよ? ホラー苦手だけど、特別」



ほんの少しだけ、計算した上目遣い。天使らしく、か弱く見えるように。

すると佐野は、表情をほとんど変えないまま――

「光栄です」なんて、さらっと言う。

……思ってないくせに。よく言う。やっぱり、こいつにはこういう仕草は効かないらしい。上目遣いで簡単に落ちるタイプじゃない。

でも、映画中なら、必ずメロメロにできる。自信はある。



「じゃ、放課後、駅で待ち合わせね」



そう言うと佐野は、「学校からで良くね?」と、当然のように返してきた。

はぁ……ほんと、なんで分かんない?



「……あんたといるところ、見られたくないの」



佐野は「はいはい」と無気力に返すだけ。

何か言い返してやろうかと思った。でも――やめた。どうせ映画のあと、こいつにはせいぜい痛い目を見てもらうつもりだし。今ここで感情をぶつけるより、計画どおりに“落として、振る”。その方がずっと効く。

気付かれないように、ほんの少しだけ睨む。誰にも分からないくらいの、目線ひとつ分の敵意。

そして、屋上を後にした。