ロマンスに、キス




――言った。言ってしまった。
最悪だ。自分から、あんな屈辱的な情報を吐くなんて。

ファーストキス。
よりによって、こいつで。絶対に許したくないのに。

胸の奥が、じりじりと燃えるように熱くなる。
全身の血が一気に頭へ昇る感覚。怒りと恥ずかしさ、悔しさがぐちゃぐちゃになって、頭の中で言葉が渦巻く。

そんなあたしを眺めて、佐野は少しだけ目を細めた。
呆れたように、でもどこか興味深そうに言葉を吐く。



「最初から思ってたけど、どこが天使なんだよ?真逆じゃね?」



カチン、と頭の中で何かが弾けた。
もう、いい。
こいつに天使扱いされる必要なんて最初からなかった。
演じる気も、もうさらさらない。

胸の奥が、さらに熱く、重く、むずむずと焦げるような感覚。
目の前の男の顔を見るだけで、苛立ちがじわじわ増していく。


でも、何を言っても無駄だ。あたしの怒りも、羞恥も、この男には届かない。
拳を握りしめてみる。力が入りすぎて爪が手のひらに食い込む。

ふー、と深呼吸。
落ち着け、落ち着け。こんなのに感情を乱されるのは、馬鹿みたいだ。もう謝らせるのも諦めよう。
あんなキス、なかったことにすればいい。あんなの、ファーストキスなわけがない。



「…土下座しなくていいから、一個だけ言うこと聞いて」

「上から目線だな」



当たり前でしょ。
文句ある?