クラスメイトたちは、まるで“待ってました”と言わんばかりに、いっせいに顔を寄せてきた。
「佐野くんね、イケメンだしモテるけど、彼女つくらないらしい」
「背高くて、ちょっと怖いけど、ファン多いよね」
「いつもヘッドフォンしてる人だよね?」
――ヘッドフォン。やっぱり、間違いなくあいつ。
あんな男の情報なんて、聞いたところで私にとっては、価値ゼロ。
……知ってどうするの?
胸の奥で、軽く舌打ちしそうになる。
でも顔には出さない。
「教えてくれて、ありがとっ」
にこっと、スマイルひとつ。口角だけをやわらかく上げて、目は少し細める。完璧ではない、自然な笑顔。
クラスメイトたちは、それだけで満足したように、顔をほころばせる。
……便利だ。
笑うだけで、勝手に機嫌が良くなるなんて。その程度なら、いくらでも与えてあげられる。
数人が「やっぱ柏谷さん可愛いよね〜」なんて言いながら、楽しそうに席に戻っていく。
その視線を背中に感じながら、私は筆箱を開く。
ほんと、単純。
笑顔ひとつで満足するなんて、可愛いものだ。
――佐野のことなんて、どうでもいい。
噂はそのうち消える。放っておけば、終わる。
そう思っていた。
……昼休みまでは。


