……昨日のあれは何だったんだろう。

 まだイライラしたままサッカー部の朝練に向かっていたら、校門のところで人とぶつかった。


「わ……ごめんなさい……、んげ」

「お、昨日の負け犬先輩じゃん」

「なっ!?」


 昨日の1年生が自転車片手に、ニヤッと笑って私を支えていた。


「負け犬は自分で立つこともできないわけ?」


 キツイ言葉に、私の中の何かが爆発した。


「ウザ! なんでそんなこと言われなきゃいけないのよ! そうだよ、どうせ好きな人一人振り向かせられない負け犬だよ!!」

「弱い犬ほどよく吠えるんすね」

「な、こっちのセリフだから! なんなのよ、昨日から!」


 1年生の手を振り払って離れる。

 離れてみると、その男の子はすらりと背が高くて、どこか見覚えのある顔をしていた。


「人の目の前でメソメソキャンキャン泣きわめいてるのは誰だよ」

「ムカつく!」


 思わず叫んだら、1年生は肩をすくめた。

 余裕ぶっててムカつく!!


「はいはい、まずはそのキャンキャン吠えるのやめろ。そんなん好きな男いねえだろ」

「うぐ……」

「昨日も入れて、今日で2日目。先が長そうだな」


 え……?

 なにそれ……?


「なにぼけっとしてんだ。あんたが言ったんだろうが。『100日で私を勝たせて』って」

「あ……うん。言ったけど……」

「じゃ、まずは俺の顔見たら、かわいく笑ってみろ。明日でいいから」

「えっ……」


 目の前で、やたら楽しそうに笑う1年生が何を言ってるのか、ちっともわからなかった。