夜と最後の夏休み

「死を覚悟したよね」

「そんな大げさな」

「いや、ほんと。花やしきなめてた」

「花やしきじゃないよ」


 休憩スペースのテーブルに顎を乗せて、死んだ魚みたいな顔の詩音を横目に、僕と美海はハンバーガーを食べていた。

 この遊園地に売っているハンバーガーは大きくて、中のハンバーグが分厚くて大好きなんだ。ここでしか食べられないから、すごく楽しみにしてた。

 詩音は白い顔でつぶやきながらジュースをすすっていた。気持ち悪くて食べる気にはならないけど、喉が痛いので飲み物だけ……ということだそうだ。あれだけ叫べばね。

 詩音は最初の下りから、最後止まるところまでほぼ叫び通しだった。美海と詩音が並んで一番後ろの席、僕はその前に一人で座った。その並びにしたのは美海だ。


「一番後ろが一番楽しいよね」


 ということだ。詩音も、


「前より後ろの方が怖くないかな……」


 と、頷いて美海の隣に座った。それが美海の罠だとも知らずに。




「この後どうしよっか。もう一回お化け屋敷行く?」

「美海はバカなの? 冗談じゃないけど」

「じゃあ私一人で行ってくるね。夜、詩音任せた」

「はいはい」


 美海は一人でさっさと行ってしまった。

 詩音はぐったりした顔のまま、美海を見送っている。


「夜、美海を一人で行かせてよかったの?」

「いいんだよ。美海は一人でお化け屋敷行くの好きだから、邪魔しないほうがいい」

「?」

「……一人で爆笑しながら回るのが楽しいんだってさ」

「意味わかんない」

「僕にもわかんない。美海が楽しいならいいんだよ」


 そう言って笑うと、詩音も笑った。


「詩音もそろそろお腹空いちゃった」

「今ならお店も空いてるからなんか買っておいでよ。おすすめはハンバーガー」

「さっき二人が食べてた大きいの? じゃあ、それにしよ」


 詩音は立ち上がって近くのハンバーガーのお店に向かった。少ししてハンバーガーやポテトを抱えた詩音が戻ってきて、すぐに満面の笑みの美海も帰ってきた。


「詩音が食べ終わったら、またコースターに乗りに行こうよ」

「行かないよ! 食べたもの出ちゃう」

「じゃあコーヒーカップ。全力で回す」

「メリーゴーランドとかさあ、穏やかなのがいいよう」


 げんなりした顔の詩音と、あれもこれも乗りたいという美海。こんな休みの日が、もう少し続くといいな。


 僕は二人を眺めて、幸せな気持ちになった。