夜と最後の夏休み

「はー……どうしよー……」

「どうした、背中丸めて」

「父さん」


 一人でため息を吐いていたら、後ろに父さんがいた。父さんはシャツにハーフパンツ。炭酸水と団扇を持って縁側に腰を下ろした。


「自由研究がうまくいってなくて」

「じゃあそれを書けばいい」

「かっこ悪いよ」

「宿題はかっこつける道具じゃないからなあ」


 だいたい、と父さんは笑った。


「研究なんだろ? それなら狙ったとおりの結果が出なかった。それが、どうしてなのかを考えないといけない」


 そう言って父さんは炭酸水を飲んだ。前にもらったけど、苦くて飲めたもんじゃなかった。なにが美味しいんだか。


「そうだけど」

「夜はどうなると思ってたんだ」

「もうちょっと、すんなりできると思ってた。母さんは当たり前みたいにやってるし」

「歴が違う。そりゃあ繰り返していれば馴れてくる。けどそれは夏休みのひと月程度の話じゃない。母さん……朝香さんが家事を始めたのは、あの人が中学のときだから……三十年以上前だ。夜が家事をしている時間の三百六十倍だな」


 同じにできるわけないだろ。そう言われたらぐうの音も出なかった。


「……ちぇ。書き方、考え直すよ」


「そうしろそうしろ。生きいて、なんでもかんでも思い通りになるわけないんだから」




 父さんに背を向けて望遠鏡を覗こうとしてやめた。聞きたい事があったんだ。


「父さんはなんで母さんと結婚したのさ」

「なんだ藪から棒に」

「気になって」

「どうだったかなあ」


 ちょっと気恥ずかしそうに父さんは笑う。


「社会人になって何年か経ったときに、新人の教育係を任されて」


 それが母さん?


「母さんの同期の子を担当してたんだけど……母さんの教育係の担当案件が炎上して母さんの面倒も俺が見ることになって」


 僕はうんうんと頷きながら話を聞く。


「教育係のときはなんにもなかった。半年くらい面倒見ておしまい。その一年か二年後に異動した先に母さんがいたんだよ。それでなんだかんだあって、付き合うことになり今にいたる」

「省きすぎでしょ」

「そうなんだけど」


 父さんは苦笑いで目をそらす。


「あーそうだなあ。きっかけは名前だな。母さんが『名前、真昼さんと言うんですね。私は朝香なのでゴミ捨ての当番は私の次でお願いします』って言い出して……それで面白いこと言うなって興味を持ったんだよ」


 その結果、息子の僕の名前は夜となった。単純すぎる。


「そんなもんなんだね」

「そんなもんだよ。人と人との付き合いなんてさ」


 空になったペットボトルを持って父さんは立ち上がった。あまり遅くならないようにと言って部屋に戻っていった。





 顔を上げると夜空には満天の星。庭から玄関の方へ回ると、隣の美海の家が見えた。

 美海の部屋は既に暗くて、隣の匠海さんの部屋は電気がついていた。

 ちょっと悩んでから縁側の方へと戻った。

 今は美海に甘えないで、一人で星を眺めることにした。