夜と最後の夏休み

「母ちゃーん、冷やすヤツくれ!」

「冷やすヤツ?」


 バタバタと家に上がり、買い物袋を台所に置いた。居間にいた母ちゃんは変な顔でやってきて、ほのかを見て目を丸くした。


「ほのかちゃん、どうかしたの。具合悪い?」

「熱があるっぽい」

「大変。タオル冷やすからソファで待っててね。辛かったら横になってていいから」

「え、いえ」

「無理すんなほのか。具合悪いなら休まねえと」


 ほのかは困った顔で俺と母ちゃんの手を引っ張った。


「具合、悪くないです! 大丈夫ですので!」

「そう? 本当に?」

「ていうか、なんで孝寿はわたしの具合が悪いとか言い出したの!」


 すごい勢いでほのかに迫られる。こわい。確かに具合なんてひとつも悪くなさそうだ。


「お前が、俺に謝るから、どっかおかしくしたのかと」

「なにそれ!」

「何があっても、ほのかは俺に謝ったり頭下げたりしねえだろ」

「そんなこと! ……あるかもだけどさ」


 ほらみろ、と言うと母ちゃんは


「人騒がせだね」


 と俺を小突いて台所へ言ってしまった。

 ほのかも怒ったまま玄関へ向かった。


「それじゃあ、またね」

「はいよ。……どした」


 靴をはいてドアに手をかけたところで、ほのかが振り向いた。けど、何も言わないで目をキョロキョロさせている。


「えっと……その……具合は、悪くないけど」


 それからまた少し黙って、ゆっくりとドアを開けた。


「し、心配してくれたのは、ありがと」

「え」

「じゃあ!」


 今度こそほのかは俺の家を出て行った。いったいなんだったんだ。




 その後、姉貴から八枚切りの食パンを買ってきたことを怒られはしなかった。しなかったけど、その食パンで作ったというサンドイッチを俺には食わせてくれなかった。ケチな姉だ。