夜と最後の夏休み

 母ちゃんにお使いを頼まれて、俺はえっちらおっちら、くそ暑いなかにスーパーに行き、くそ暑いのに天ぷらだのなんだのを買って、再び家へと戻っていた。


「だって孝寿、そうめんには天ぷらが必要でしょ」

「孝寿買い物行くの? ついでに朝ごはんの食パンも買ってきて。四枚切りね。バターも」

「めんつゆがあとちょっとだから、それもお願い」


 そんな感じで母ちゃんと姉貴はアホほど俺に買い物を言いつけた。そのせいで荷物がめちゃくちゃ重い。ムカつくのでパンはペラペラの八枚切りにしておいた。悔しがるといい。




 空には入道雲がモクモクわさわさ沸いていて、もしかしたら夕立になるかもしれない。ならないかもしれない。

 そういう話は夜が詳しい。俺は知らん。俺が得意なのは社会と国語で、理科と算数が得意な夜とは正反対なのだ。


「あー暑い」


 家の前の坂に立ち向かう。坂の先には入道雲と人影が見えた。


「ほのか」


 真っ黒にしか見えなかった人影はほのかで、無表情でこちらを睨んでいる。こえーよ。


「どしたよ」

「佐々木くんに告白する」


 ほのかが静かに言った。


「それ、俺に言う必要ある?」


 聞きたくねえし。けど夜がほのかに付き合うだのなんだの言うわけないから、むしろチャンスなのでは。フラれたほのかを俺がいい感じに慰めることで、ほのかも俺を見直したり……しないか。

 川瀬に、


『いいように使われてるから、ほのかの恋愛対象にならないんだよ』


 なんて言われたのは最近だった気もするし、ずっと前だった気もする。

 俺が、ほのかにとって都合のいい幼なじみじゃなくなる日なんてくるんだろうか。

 そんなつまんないことを考えつつ、とりあえず家に向かう。なにしろ荷物が重くてしょうがないのだ。


「孝寿に言う必要はないかもしんないけども」


 ほのかは俺の後をついてきた。それ、まだ聞かなきゃダメか。


「わたしが孝寿に聞いてほしかった。それじゃダメかな」

「聞かされる俺の身にもなってくれ」


 俺がそう言ったところで、ほのかは気にもしないだろうけど。そんなやけくそみたいな気持ちだったのに、ほのかは黙ってしまった。


「ほのか?」

「……ごめん」


 ほのかが、俺に謝っただと? 熱でもあるんじゃないか? よく見れば顔が赤かったり息が乱れている気がする。

「ほのか、とりあえず来い」


 慌ててほのかの手を引いて家に入る。