夜と最後の夏休み

 こちらを見る美海の顔は、やっぱり暗くてよく見えない。でも、懐中電灯を消してしまったのに、濃い青の空の下でまだ目はキラキラと光っている。僕は、それを見るのが好きで、好きで。


「好きだよ。きみは僕の大事な女の子だ。けどね」


 目の前の女の子はなにも言わない。それでもちゃんと聞いてくれている。それを知っているから、僕はきみが大好きだ。

 今それを言うつもりなんてなかったけど、言い出したら止まらなかった。


「僕はまだ美海に甘えてばかりだ。詩音の言うとおり、僕は美海にすがってばかりいる」

「そんなことは。それなら私も」

「だからね」


 言いかけた美海を無視して僕は続けた。


「だから僕は夏休みの自由研究を『自分のことは自分でやる』にした。大好きなきみに、甘えて負ぶさりたくはないんだ。自分のことは自分でやって、ちゃんとできることを見つけて。美海に胸を張れるようになりたいんだよ。僕は美海が好きだから、あんまりかっこ悪いとこ見せたくないんだ」

「……うん」

「好きだよ美海。大好きだ。でも今の僕じゃダメだ。付き合うとか、恋人とか、そういうの、もうちょっと待っててもらえる? もちろん、待ってもらえるなら」


 言いたいことは全部言った。たぶん全部言えた。美海の返事を待つ。美海はなにも言わなかった。

 黙っている時間がすごく長く感じる。

 本当はほんのちょっとだったのかもしれないけど、僕の意識は拡大されていて、うーんと大きく引き延ばされているようで、ちょっとのものが大きく長く感じる。


「夜」

「うん」

「待ってるよ」

「ありがとう」


 それしか言えなかった。小さく息を吐く。思っていたより、僕は緊張していたみたいだ。


「けど」

「うん」


 安心しかけた心臓が跳ね上がる。


「あんまり、待たせすぎないでね」


 そう言って美海は家に帰っていった。

 送っていかなきゃとか、急ぐからとか、そういうことはなんにも言えなくて、情けない僕は立ち尽くすばっかりで。

 美海が見えなくなった今更になって、心臓がドコドコドカドカ騒ぎ出した。僕はやっぱり、あの子が大好きだった。