夜と最後の夏休み

 昼まで海で遊んでから美海の家にお邪魔する。美海のお兄さん……匠海さんがお昼を用意してくれていた。


「庭で足洗ってから入れよ。砂まみれになるだろ。つーか貝採りすぎ! どうすんだこれ。えっと塩焼きと……パエリヤと……味噌汁と……酒蒸しもするか。あとはなにがいいかなあ」


 匠海さんはブツブツ言いながら貝を洗って砂を落としていた。用意されていたお昼はそうめんで、天ぷらや煮物も添えられていて、すごい豪華だ。


「おいしい」

「詩音ちゃんわかってるねー。その椎茸、うまく味が染みたと思うんだよ」

「匠海さん、なんか所帯じみましたね」

「うるせえぞ夜。黙って食え。俺に感謝しろ」

「めちゃくちゃうまいです。さすが匠海義兄さん」

「まだお前を美海の婿に認めてねえぞ!」


 匠海さんも美海と同じで夜とは幼なじみだ。夜と美海が小さいときは匠海さんが二人を連れ出したりもしていたらしい。

 だからか、夜は匠海さんにすごくなついているように見える。


「そうかあ?」


 詩音の言葉に匠海さんは顔をしかめた。


「夜は美海以外に興味ねえだろ」


 匠海さんが夜を見たら、夜はニコッと笑った。


「そんなこと、あります」

「ちっとは自重しろ。ああでも、詩音ちゃんとも仲良いんだな。いいことだ。おい夜、野菜食え。インゲンを避けるな」

「美海が好きかなって」

「好きだけど、自分の分は自分で食べて」


 三人はまるで家族みたいに馴染んでいてうらやましい。

 詩音は、端から見たらどう見えるのだろう。三人と一人か、それとも。


「そうだ、パエリヤ」


 食べ終えた美海がぱっと顔を上げた。


「詩音がパエリヤ知らないって」

「そうなん?」

「あ、はい。食べたことないです。おしゃれな炊き込みご飯? って美海からは聞いたんですけど」


 顔を上げたら、匠海さんは苦笑して肩をすくめた。


「説明が雑すぎる。だいたいあってるけどさあ。じゃあ説明がてら手伝ってくれ。さすがにあの量を一人でなんとかするのは大変だ」

「はい! ……料理、調理実習くらいしかしたことないですけど」

「いきなり難しいこと任せたりしねえよ」


 匠海さんは笑って食卓を片付け始めた。笑顔が美海そっくりで嬉しくなる。


「お兄ちゃん、私も手伝うよ」

「おー。なら貝から砂を吐かすからザル持ってこい。でかいヤツ。夜は皿洗え」

「はいはい。お義兄さん、僕にあたり強くないです?」

「お義兄さん言うな。そういうところだよお前は」


 夜と匠海さんが言い合いを始めた。それがおかしくて、美海と笑ってしまった。

 詩音はもう、寂しくない。