川瀬美海は自宅の縁側で悩んでいた。空き地に行くか、行くまいか。

 行きたいことは行きたいのである。

 たぶん友達が待っている。でもそこで見たくないものを見てしまうかもしれない。だから行きたくない。

 美海の最近の悩みはもっぱら友達の佐々木夜と矢先詩音についてだった。美海は二人のことは大好きだ。

 幼馴染で、生まれたときから一緒にいる夜。

 長期休暇のときしか会えないけど、その分深く付き合うことのできる詩音。

 二人共大事な友達だけど、だからこそ美海は悩んでいた。美海は夜のことが好きだから。

 そのことに美海が気がついたのはごく最近のことだ。

 だからこそ、美海はどのように夜に接していいかわからないし、夜と仲の良い詩音に対してどのような顔をすればよいかもわからなかった。


「どうしよう」


 美海はぐるぐると悩んでいた。

 一応、毎日空き地には顔を出していまから、今日だけ行かないのも変な話だし、一度行かなくなるとずっと行けない気がしていた。

 今まで美海は気にしていなかったけど、夜と詩音はかなり仲が良い。

 物静かで自分から話さない夜に対して、詩音がぐいぐいと接近している。夜もそんな詩音を気に入っているようだし。

 好きな人が他の人と仲良くしているのを見るだけでこんな気持になるなんて心が狭いな、と美海は思った。

 だから行こう。美海は決心して立ち上がった。

 拳をにぎって、空き地に向かって歩き出す。


「……」


 空き地について数秒で美海は後悔した。

 本当に、来るんじゃなかったと。

 空き地の土管の上に夜と詩音が並んで座って楽しそうに喋っていた。

 それこそ美海の入る隙間なんてない。

 そして美海が逃げ出すより早く、詩音が美海に気づく。


「あー、美海! おはよ!!」

「もう朝じゃないよ。こんにちは、美海」

「う、うん。詩音も夜もこんにちは」


 詩音に満面の笑顔で手を振られて、美海は手を振り返すしかない。

 夜も穏やかな笑顔を向けてくれていて、そのことに悪い気はしなかった。

 いつもよりほんの少しゆっくり、美海は二人の座る土管の前に向かった。少し悩んでから詩音の横に座る。


「美海、今日はゆっくりだったね」

「ちょっと寝坊しちゃって」

「最近暑くて寝苦しいもんね。あ、だから夜はここで寝てたの?」

「そういうわけじゃないんだけど」

「え、夜、ここで寝てたの?」

「そうなんだよー、土管の上で寝てたからびっくりしちゃった」

「なんか、気づいたら寝てたんだよね」


 自分のことから話題が反れて、美海はほっとした。

 そのまま三人は他愛もない話を続けた。