結局、美海の家に詩音が来ていたのはほんの五分ほどだった。詩音は言いたいことだけ言って帰ってしまった。


 今年の夏はもう詩音には会えないだろうと美海は思う。夜はそのことを知っているのだろうか。詩音は先に夜の家に行ったかもしれないし、これから行くのかもしれない。行かないかもしれない。

 どちらにせよ詩音に会えなくなると、夜はひどくがっかりするだろう。

 そんな夜に、美海はなんと声をかければよいのだろうか。


「私は、私のことばっかりだね」


 美海は自嘲するように笑った。

 少なくとも詩音に謝ることはできた。

 だから次にやるべきことをやらなくてはいけない。本当は今すぐ夜に会いたいけれど、すこし落ち着かなくてはいけない。

 美海は夜が好きだ。それは変わらない。

 でも、今すぐにどうにかしたいとは思わなくなった。

 夜には夜の問題があって、美海はきっと、それを支えたり助けたりすることができない。

 もう少し、美海が大人になる必要があるのだ。

 夜もそうだ。親との関係に飲み込まれてしまわないように、自分の足で立てるように、夜自身が大人にならなくてはダメだ。

 そうしないと美海とこれ以上の付き合いを考える余裕などないだろう。


「もう少し、友達として一緒にいよう」


 そう決めたら、心が少し軽くなった気がした。

 空き地に行こう。

 夜はきっとそこにいる。

 そして詩音や夏休みの話をしよう。

 昨日までのことをたくさん話そう。

 少しでも積み上げてきたものがあることを二人で確認するために、美海は玄関の扉を開けた。