佐々木夜が家出をした翌日。


「夜、お皿並べて」

「この白いのでいいの?」

「ええ。あとカウンターにお味噌汁が置いてあるから持っていってね」


 夜は家事を手伝うようになった。

 食事の準備の手伝いと、風呂掃除は夜の担当。

 昨晩、帰宅後に父と母と話し合って決めたことだ。


 今までずっと夜は母親から逃げてきた。

 小うるさく怒られて、あれやこれやと口を出されて被害者のような気持ちでいた。

 でもそれだけじゃなかった。母親には母親の言い分があり、それを一方的に否定し続けてきたのも夜なのだ。

 いきなりすべてを受け入れることはできない。

 いきなりすべてを変えることはできない。

 夜と母親の間の溝はきっとすぐには埋まらない。

 それでも少しずつ、子供扱いされないためにできることを増やそうと思った。


 朝食と宿題を終えて家から出た。

 走っていった先の空き地に、まだ詩音と美海はいなかった。

 きっと待っていれば来るだろう。

 もしかしたら来ないかもしれない。昨日の今日だから疲れているかもしれない。

 それでも夜は二人に会って、昨晩のことを謝りたかった。

 いきなり連れ出したこと、どうしようもないわがままに突き合わせてしまったこと。

 それから二人にお礼を言いたかった。今まで一緒にいてくれたこと。友達でいてくれたこと。


「二人共、早く来るといいな」


 夜は空き地の土管に座って足を揺する。

 空は高く、雲は薄い。もうすぐ夏も終わるだろう。

 夏休みの終わりまでに、三人でなにができるか、夜は楽しみで目をつぶった。