衝撃が走った。
小学生だった私には、この人はまるで大型犬のように見えた。ドーベルマンとかハスキーみたいなキリッとして怖い系だ。
兄の親友を動物に例えるなんて失礼なのはわかっていたけれども、とにかく怖くてずっと苦手だった。

彼が、どうして今ここに……。
兄の顔を見に来たとか? 新婚夫婦を冷かしに来た――ようには見えないけれど。
そんな私に兄はにっかりと笑った。

「覚えてるなら話は早いな。千紗、今日から湊と一緒に暮らせ」
「え?」

職業柄、兄は結論から述べる人だ。単刀直入なのはいいんだけれども、唐突過ぎて頭にはてなマークが浮かんでしまう。

私が、湊さんと暮らす……!?

口をぱくぱくさせている私に兄はうんとうなずいた。
その横では兄の奥様である美湖さんが苦笑いを浮かべていた。

湊さんだけが、きりりとした表情で私を見ていた。
目が合ってドキリとする。
大型犬ににらまれたような心地がして、思わず目を逸らしてしまった。