「・・・ねぇ」
ガリガリと飴を噛んで飲み込んだらしい碧李は、眠そうな、でも真剣な瞳でこっちを見てきた。
「魅憂は恋しないの?」
恋・・・?
あぁ、そうか。
私がずっと『恋なんてしたくない』と言ってるくせに、だれにも理由は話さなかったから。
「・・・そうだね、私は恋なんてしたくない」
そう答えながら、碧李の前の席に腰を下ろす。
そのまま彼のほうを見ると、彼は猫のように目を細めていた。
私の心を読もうとしているかのように、じっと見つめられる。
その視線を、笑みを湛えたまま受け入れると、碧李は諦めたように目を逸らした。
そして、また机に突っ伏してしまう。
その頭を再度撫でると、碧李は、目だけをこちらに向けた。
目が合い、澄んだその瞳に吸い込まれそうになる。
口が開いて、自然となにかを言おうとして──。
「・・・なんでそんなに可愛いの?」
私より先に、彼が声を発した。
「・・・可愛い?初めて言われたよ。今までの一番の誉め言葉は『元気だね』だからね」
面と向かってそう言われるのは恥ずかしくて、笑いながら流そうとする。
今まで彼は、そんなこと言おうとしなかった。
もともと人を褒めないのだ、今日は機嫌がいいんだろうか。
「流すの、下手だね」
「なっ・・・下手ってなにさ下手って。『恋なんてしたくない』って言ってるくらいなんだから当たり前でしょ!」
ムキになってそう言い返すと、碧李は小さく笑った。
こちらを見つめる瞳に、優しさが宿っている。
いや、でも・・・優しさだけじゃない。
他の、大きくて熱い感情が、こちらを見ている気がする。
「碧李・・・?」
いつもの彼らしくない。
ぼーっとしているのはいつものことだが、熱に浮かされたようにこちらを見つめてくるなんて、初めてだ。
熱でもあるのかな・・・。
思わずその額に手を伸ばすと、触れる直前で手首を掴まれた。
「冷たいね」
そのまま、私の手は碧李の頬に擦り寄せられる。
「ちょ、碧李、・・・」
なにか言いたいのに、何も言えない。
こちらを見つめて、試すように笑んでいるその瞳に、抗えない。
仕方がない、じっとしていようと決めた私に、碧李は満足げに笑った。
「・・・ほんとに恋したくない?」
「え?・・・うん、したくないよ」
「ほんとのほんとに?」
「うん」
「俺が恋したいって言ったら?」
「いい女の子を一緒に探してあげるよ」
一問一答のような、でもテストのように模範解答はない。
私のどの回答が彼の機嫌を良くし、どの回答が彼の機嫌を損ねるのか。
「・・・俺が、魅憂と恋したいって言ったら?」
「・・・え」
頭の中でサイレンが鳴った。
危ない。
ここにいては私が危険だ。
碧李が碧李じゃない、彼らしくないコトを訊いてくる。
碧李の発言が、私の危機管理能力の縄張りに入り、私は、捕まえられている自分の腕を引っ張り、教室の出口付近まで逃げた。
いつもだったらうまく躱せているはずなのに、なぜだか今日は上手くいかない。
・・・いや、相手が碧李だから?
「待ってよ」
自問自答をしていると、耳の傍で声がした。
柄にもなく、音もわず肩が跳ねる。
「今離れたくないんだよね」
言外に、『逃げるなよ』と言われている。
「ひ・・・っ」
「酷いなぁ、俺そんなに怖い?」
怖・・・いよ。
その言葉が、喉につっかえて出ない。
ただただ震えることしかできない私は、碧李に抱えられてまた教室の奥に戻ってしまった。
ガリガリと飴を噛んで飲み込んだらしい碧李は、眠そうな、でも真剣な瞳でこっちを見てきた。
「魅憂は恋しないの?」
恋・・・?
あぁ、そうか。
私がずっと『恋なんてしたくない』と言ってるくせに、だれにも理由は話さなかったから。
「・・・そうだね、私は恋なんてしたくない」
そう答えながら、碧李の前の席に腰を下ろす。
そのまま彼のほうを見ると、彼は猫のように目を細めていた。
私の心を読もうとしているかのように、じっと見つめられる。
その視線を、笑みを湛えたまま受け入れると、碧李は諦めたように目を逸らした。
そして、また机に突っ伏してしまう。
その頭を再度撫でると、碧李は、目だけをこちらに向けた。
目が合い、澄んだその瞳に吸い込まれそうになる。
口が開いて、自然となにかを言おうとして──。
「・・・なんでそんなに可愛いの?」
私より先に、彼が声を発した。
「・・・可愛い?初めて言われたよ。今までの一番の誉め言葉は『元気だね』だからね」
面と向かってそう言われるのは恥ずかしくて、笑いながら流そうとする。
今まで彼は、そんなこと言おうとしなかった。
もともと人を褒めないのだ、今日は機嫌がいいんだろうか。
「流すの、下手だね」
「なっ・・・下手ってなにさ下手って。『恋なんてしたくない』って言ってるくらいなんだから当たり前でしょ!」
ムキになってそう言い返すと、碧李は小さく笑った。
こちらを見つめる瞳に、優しさが宿っている。
いや、でも・・・優しさだけじゃない。
他の、大きくて熱い感情が、こちらを見ている気がする。
「碧李・・・?」
いつもの彼らしくない。
ぼーっとしているのはいつものことだが、熱に浮かされたようにこちらを見つめてくるなんて、初めてだ。
熱でもあるのかな・・・。
思わずその額に手を伸ばすと、触れる直前で手首を掴まれた。
「冷たいね」
そのまま、私の手は碧李の頬に擦り寄せられる。
「ちょ、碧李、・・・」
なにか言いたいのに、何も言えない。
こちらを見つめて、試すように笑んでいるその瞳に、抗えない。
仕方がない、じっとしていようと決めた私に、碧李は満足げに笑った。
「・・・ほんとに恋したくない?」
「え?・・・うん、したくないよ」
「ほんとのほんとに?」
「うん」
「俺が恋したいって言ったら?」
「いい女の子を一緒に探してあげるよ」
一問一答のような、でもテストのように模範解答はない。
私のどの回答が彼の機嫌を良くし、どの回答が彼の機嫌を損ねるのか。
「・・・俺が、魅憂と恋したいって言ったら?」
「・・・え」
頭の中でサイレンが鳴った。
危ない。
ここにいては私が危険だ。
碧李が碧李じゃない、彼らしくないコトを訊いてくる。
碧李の発言が、私の危機管理能力の縄張りに入り、私は、捕まえられている自分の腕を引っ張り、教室の出口付近まで逃げた。
いつもだったらうまく躱せているはずなのに、なぜだか今日は上手くいかない。
・・・いや、相手が碧李だから?
「待ってよ」
自問自答をしていると、耳の傍で声がした。
柄にもなく、音もわず肩が跳ねる。
「今離れたくないんだよね」
言外に、『逃げるなよ』と言われている。
「ひ・・・っ」
「酷いなぁ、俺そんなに怖い?」
怖・・・いよ。
その言葉が、喉につっかえて出ない。
ただただ震えることしかできない私は、碧李に抱えられてまた教室の奥に戻ってしまった。



