泣いている顔を見られたくなくて俯くと、靴底がこつりと鳴った。
「好きだよ」
真上から声が降ってきた。
「年甲斐もなく、咲良ちゃんに恋しているよ」
「嘘……そんなの、信じられない」
麗華さんのことを知る前だったら、どれほど嬉しかったか。舞い上がって涙を流したかもしれない。
でも、今は全く逆の意味で涙が込み上げてくる。
「だって、婚約者がいるって……」
「婚約者がいるのも本当だ」
「……どうして……」
婚約者がいることを黙っていたのか。ううん、どうして私のお弁当を受け取ってくれるのか。違う、どうして私を好きになってくれたのか。
聞きたいことがありすぎて、なにを信じたらいいのかわからなくて、言葉を選べなかった。
東條さんの手が、冷え切った私の指に触れた。
「俺の話を聞いてくれるかな」
そっと遠慮がちに触れた指を握って頷くと、温かい指先が握り返してくれた。
ここは寒いからと駐車場に停めてある車まで向かうことになった。
歩いている間、ずっと手は握られたままだった。


