バイトが終わってから電車に揺られ、自宅に辿り着いたのは22時を回っていた。
 どっと疲れを感じ、狭いシンクにお弁当箱を置いたら、ため息が自然と零れ落ちる。

 脳裏をよぎったのは、喫茶店で会った麗華さん。

「婚約者がいたなんて」

 凄い美人だったな。
 麗華さんは東條さんのことを少しも思っていないっていってた。結城くんと仲睦まじい様子を目の当たりにしたら、それを信じるしかないんだけど。

「……政略結婚っていってたな」

 お弁当箱を洗いながら、麗華さんが流行らないといっていた話しを思い返した。
 考えだしたら胸の奥がざわざわとして、鼻の奥がツンとしてくる。

 女なら誰だってウエディングドレスに憧れるわけじゃないだろうけど、きっと麗華さんは憧れる人だろう。結城くんのためにドレスを着たいんだと思う。
 でも、いくら白い結婚っていわれても、東條さんと結婚したら、横に立つのは結城くんじゃないんだよね。

 タキシードを着た東條さんの姿を思い浮かべてみた。