愛情ごはんを届けたい ~エリート社長は過労死寸前!? あなたの心と体を私の料理で癒します~

 あの時、笑顔で「いってきます」と手を振った咲良ちゃんは、しばらく俺が去るのを見ていた。だけど、一人の学生に声をかけられて視線を逸らすと、なにか楽しそうに話し始めた。

 俺以外に向けられた笑顔を始めて見て、咲良ちゃんと自分が同じところにいないと、痛感した。

 いつか咲良ちゃんは、俺の知らない男と恋に落ちるんだろう。あるいは、あの青年がと思うと、喉が渇いた。

 彼女の幸せがそこにあるなら、俺は笑って、おめでとうといわなきゃいけない。頭ではわかっているのに、覚悟を決められない。

 温かな料理を口にしたら、この幸せを手放したくないと思ってしまう。
 もう少しだけ甘えてもいいだろうか。

 ため息を誤魔化すようにして、ポトフのカップに口をつけた。一口飲んだら、じんわりと広がる優しい味が「甘えていいよ」といっているようだった。

「咲良ちゃんには、感謝してもしきれないな」
「ふふっ、私は東條さんの健康管理部でしたっけ? 結構楽しんで料理してますから。これからもお任せください」