一織さんがおにぎりを食べる姿をこうして見られるだけで、今は充分だ。

「咲良ちゃんは、おにぎりの具ってなにが好きなの?」
「んー、一番は梅干しです。でも、焼きタラコとか鮭も好きだな」

 おにぎりをぺろりと食べた東條さんは「そうなんだ」と嬉しそうに頷く。

「俺も梅干しが一番好きでさ。明太子よりも焼きタラコが好きだし、鮭はフレークよりも焼いたほぐし身が嬉しいな」
「あ、わかります! 明太子も好きだけど、焼きタラコの方が食べ応えがあるっていうか」
「そうそう。鮭フレークも便利だけど、焼いたほぐし身の方が味が染み出るっていうかさ」
「ちょっと塩気が強いやつですよね」

 変わり種もたまにはいいんだけど、梅干しやタラコ、鮭は子どもの頃に食べた味だから落ち着くのかもしれない。もしかしたら、東條さんもそうなのかな。

 ベンチャー企業の社長さんなのに、どうして凄く近い人に感じるんだろう。同じように、家族を亡くしているからなのかな。

 炊き立てのご飯で作る塩にぎりも好きだし、冷ご飯で作る焼きおにぎりもいい。そんなことを話しながら、東條さんはもう一個のおにぎりを食べ終えた。