ひやりとする車内に、ふわりと味噌の香りが立ち込めた。
 ピンクのスープジャーに口をつけた東條さんは、ほっと息をつくと短く「うまっ」と呟く。どうやら気に入ってくれたみたい。

「野菜たくさん入れました」
「生き返る感じがする……毎朝飲めたら幸せだな」
「毎朝は大変だけど、お休みの日は作りますね」
「マジ?」

 アルミホイルで包んだおにぎりを差し出すと、東條さんは嬉しそうに顔をほころばせる。

「咲良ちゃんをお嫁さんにできる人は、幸せ者だな」
「そんな人いませんって」
「これから現れるよ……ん、おにぎりは梅干しか」

 俺のお嫁さんになって、とはいってくれないんだ。やっぱり、学生の私は恋愛対象じゃないってことだよね。

 ちくりと胸が痛む。
 だけど、東條さんが美味しそうに食べてくれるから、その姿を眺められる今が幸せだから、出かかった言葉を飲み込んだ。

 変に誤解をしちゃダメだよね。好きですって伝えて気まずくなったり、今の関係が壊れたら寂しすぎるもの。