「顔、真っ赤だよ」
「だって……そんな風に褒められたことないし」
「そうなの? 本当に見る目がないな。もしも俺が学生だったら」

 そこで言葉を止めた東條さんは、少し照れたような顔をして「口説いてたな」といいながら笑った。

「ま、またそんな冗談を。そんなこといっても、デザートは持ってきてませんからね!」

 声が震えた。だって、冗談でも嬉しいから。
 
「それは残念」といって歩き出した東條さんは、停めてある車に真っすぐ向かっていった。その背中を追いながら、心の中で「今から口説いてくれてもいいのに」と呟く。

 言葉にできていたら、東條さんはなんて返しただろう。そう思ったけど、勇気を出すことはできなかった。