愛情ごはんを届けたい ~エリート社長は過労死寸前!? あなたの心と体を私の料理で癒します~

 ポットやドリッパー、カップをお湯で温める。それからペーパードリッパーに引いた粉を落とし、丁寧にならす。

 最初に注ぐお湯でコーヒーの香りを引き出す。ナッツのような芳ばしい香りが立ち上がるのをじっくり待つ。三十秒の間に、飲んでくれる人の笑顔を思い浮かべるんだよと、店長はいっていた。
 ふと顔を上げると、いつの間にかカウンターの向こうへ移動した一織さんが、喫茶店で待つような顔をして、こちらを見ていた。

 急がず焦らず、コーヒーの香りが心に沁みるのを感じながら、お湯を落としていく。

 ポットを満たしたコーヒーを少し揺らして、抽出した香りと旨味を均等にするのも忘れちゃいけない。
 一つ一つに気を配り、温まったコーヒーカップにそっと注ぐ。

 カウンターの上に置いたお揃いのカップから、芳ばしい湯気が立ち上がった。

「お待たせしました」
「ありがとう。咲良ちゃんも、こっちにきて飲みなよ」

 カップを手にした一織さんは目を細め、コーヒーの香りを吸い込んだ。その横に座り、私もカップを手に取る。