空になったお皿を重ね始めた一織さんは「コーヒーを淹れよう」といって立ち上がった。
キッチンについていくと、少しだけ困ったように微笑まれる。
「橘社長はいい人でな。仕事の上でも話が合う。ただ、結婚に関しては考えが古くて、家柄を気にする人なんだ。だから、東條に目をつけた」
「……家柄」
「婚約解消を受け入れてもらえそうになくってさ。仕方なく、俺が愛人の息子だって話をしたら、顔を真っ赤にして騙したのかと怒鳴られたよ」
コーヒーメーカーから芳ばしい湯気が立ち上がる中、一織さんの寂しそうな声が響く。
小さくため息をつき「好きで愛人の子になったわけじゃないのにな」といった言葉が、突き刺さった。
「けど、あの男の面に少しは泥が濡れたかと思えば、気分がよかったよ。怒鳴られるのも、蔑まれるのも慣れているからな」
一織さんの背中が泣いているようだった。どうしたらいいかわからず、その背中にそっと寄り添うと、振り返った彼は穏やかに「大丈夫だよ」と呟く。
ちっとも大丈夫じゃない。一織さんの心はどこまでも傷つけられてきたんだ。
キッチンについていくと、少しだけ困ったように微笑まれる。
「橘社長はいい人でな。仕事の上でも話が合う。ただ、結婚に関しては考えが古くて、家柄を気にする人なんだ。だから、東條に目をつけた」
「……家柄」
「婚約解消を受け入れてもらえそうになくってさ。仕方なく、俺が愛人の息子だって話をしたら、顔を真っ赤にして騙したのかと怒鳴られたよ」
コーヒーメーカーから芳ばしい湯気が立ち上がる中、一織さんの寂しそうな声が響く。
小さくため息をつき「好きで愛人の子になったわけじゃないのにな」といった言葉が、突き刺さった。
「けど、あの男の面に少しは泥が濡れたかと思えば、気分がよかったよ。怒鳴られるのも、蔑まれるのも慣れているからな」
一織さんの背中が泣いているようだった。どうしたらいいかわからず、その背中にそっと寄り添うと、振り返った彼は穏やかに「大丈夫だよ」と呟く。
ちっとも大丈夫じゃない。一織さんの心はどこまでも傷つけられてきたんだ。


