東條さんと二人残され、一瞬静かになった。

「野崎教授は相変わらず騒々しいな」

 苦笑する東條さんは、帰ろうかといって歩き出す。それを追いかけると、ようやく冷静さを取り戻して私の思考が動き始めた。

 つまり、東條さんは私の通う浜都国立大経営学部のOBで、ベンチャー企業社長という成果を収めた。だから、学生時代に所属していたゼミの教授である野崎教授から特別講師を頼まれ、打ち合わせのために大学を訪れていた。そこに、私は偶然居合わせたってことよね。

 二人で肩を並べて歩き出しながら「驚きましたよ。浜大のOBだったんですね」と訊ねると、東條さんは少し眉を寄せて笑いつつ頷いた。

「まさか咲良ちゃんが後輩だったなんてな。しかも、野崎教授のゼミに来年から入るなんて、世間も狭いね」
「本当に。まさか、東條さんがベンチャー企業の社長だなんて……そんな凄い人だったんですね」
「そんな凄くもないよ。昼飯を食べ損ねて後輩に怒られるような、ダメ社長です」

 おどける様にいった東條さんは、お腹を摩ると「実は今日も食べてなくてさ」と目じりを下げて笑った。
 
「また食べてないんですか?」