「咲良ちゃん、東條建設って知ってる?」

 車に乗り込んですぐに、東條さんはそう尋ねた。

「東條建設ってゼネコン大手の……え、まさか……」
「そう。俺の父親はその社長、東條秀儀だ」

 住宅の建設だけじゃなく大規模な都市開発事業や、建設の自動化システムの開発にも取り組んでいる東條建設のCMが脳裏に浮かんだ。
 都心のビル建設だけでなく、東京近郊の分譲地ではよく東條建設の建設現場を見る。知らない人はいないんじゃないかな。

 突然の告白に言葉が出てこなかった。

「けど俺の母親とは籍を入れていない……俺の母親は、あの男の愛人だったんだ」
「えっ……」

 立て続けに告げられた事実を理解することができなかった。

「幼少期、俺には父親がいないと思っていた。母親は俺を育てるために昼夜問わず働き通しで……そんな母親が病に倒れたのは、俺が中学の時だった。毎年健康診断を受けていたのに、あっさりこの世を去ったよ」

 母親の葬儀に父親が現れ、養子にしたいといわれたことを悲しそうな目で教えてくれた。