「ねぇ、アイズ、あなた働いてみない?うちで」
一瞬、なにを言われたのか分からなかった。
「え?」
やはり穀潰しはよくなかったのだ。自分から働かせてくださいと言うべきだった。
このことで一体どれほど嫌われたのか、わからない。
「正直、アイズの今の状態は良くない。魔法を失った魔女がこの先どうなるのかもわからないからね。
色んな事があって、いっぱいいっぱいになっているのは分かるけど自分で動かなければ何も変わらない。
だから、なにかしら行動を起こすべきだと思ったの」
あれ?
怒ってはいない……?
むしろ心配してくれてるのだろうか。
「でも、私は、役に立たないと思います」
飲食店や薬屋、ギルド、屋敷のメイド。
全て1週間以内にクビになった。
「あなた、文字は読めるでしょう?」
「……はい」
「計算は?」
「できます」
孤児院でならったから。
「それなら十分よ」
あまりにも簡単に言われて、私は言葉を失った。
「うちは商会をやってるの。書類の整理や帳簿の確認、私の仕事の手伝い。あなたならできるわ」
「でも、王国の識字率も悪くないですよね。そんなことなら、できる人はいるんじゃ……」
「おっと?事務作業なめちゃだめだぞ?派手じゃないけど、大事な仕事なんだからね」
「でも……」
「でも?」
「……人と、会えません」
声が小さくなる。
「顔を見られるのが、怖いです」
ロニーナさんは、黙った。
それから、私の隣に腰を下ろした。
「だったら、最初は会わなくていい」
「……え?」
「私の秘書になりなさい」
「秘書……」
「私の仕事だけ手伝えばいい。必要以上に誰かと話す必要もないし、顔を見せる必要もない。あなたができる範囲から始めればいいわ」
私は俯いた。
そんな都合のいい仕事があるのだろうか。
「……私なんかが、役に立つんですか」
「役に立つわよ」
即答だった。
「それにね、アイズ」
ロニーナさんは穏やかに続ける。
「あなたが今すぐできるようになる必要なんてないの」
「……」
「笑えなくてもいい。人と話せなくてもいい。自分を好きになれなくてもいい」
胸の奥が、ほんの少しだけ痛んだ。
「ただ、自分で自分を生きることだけは、諦めないで」
「……」
「魔法を失ったからって、あなた自身まで失ったわけじゃないでしょう?」
その言葉に、私はおもわず顔を上げた。
けれど、ロニーナさんの顔を見ることはできなかった。
「……分かりません」
「じゃあ、分からないままでいいわ」
ロニーナさんは笑った。
「働きながら探しましょう。あなたが何者なのか。これから何をしたいのか」
私は膝の上で、ぎゅっと手を握った。
何もしたくない。
何も考えたくない。
そう思っていたはずなのに。
ほんの少しだけ。
明日があるような気がした。
「……やってみます」
「じゃあさっそくこの服着てみてくれる?
あ、こっちは頭にかぶるヴェールね」

