貴方と奏でる夜想曲 貴女に奏でる小夜曲

促されて、ベッドの端に並んで掛ける。

彼は困ったようでもなければ、イラついて不機嫌になるでもなく、いつもの優しい彼だった。

「差し支えなければ、少し聞いてもいい?」

「……うん」

「あ、話したくないことは、無理に話さなくても大丈夫なんだからね」

「ん、わかった」

私は目を伏せて小さく頷いた。

「緊張は“着衣ではしない行為”に起因する、で合ってる? それとも違う?」

「……違わない」

「そっか。では、立ち入ったことを聞くようだけど……何か気がかりがあるとして、それは経験があるとかないとか、そういう話?」

「それは、ちょっと違くて。その……経験がない、というわけではないのだけど……」

しどろもどろになりながら、実はひとつ安心していた。

過去の恋愛について、とくにその――性的な関係について、酔っ払ってあれこれ赤裸々に話していたらと、心配していたのだけど。

(よかった、なんでもかんでもあけすけに話していたわけじゃなくて……)

「なんていうか、あまりいい思い出がないっていうか。あ、乱暴されたり、重大なトラウマがあるとかではないんだけど……うん」

「ただ、瑞樹にとっては不本意なことがあったり、我慢したり、その行為をあまりいいものとは思えなかった、みたいな。そういう感じ?」

「そんな感じかな……」

「なるほどね」

なんだか不思議、というか新鮮だった。

だって今までは、お付き合いを始めれば“それ”は当たり前に“する”もので、こんなふうに話題として扱われることはなかったもの。

“したい”とか“したくない”とかじゃなくて“する”みたいな、そういう感じ?

もちろん、そのためだけにお付き合いを始めるとかではなかったはずだけど、当たり前に付いてくる建て付けではあったと思う。

「ごめんね。これでは尋問みたいだよね」

「尋問だなんてそんな。あ、でも、ちょっと問診みたいとは思ったかも?」

「ああ、確かに……いや、それはそれでやっぱり申し訳ないよね」

私はこちらこそ申し訳ないと思いつつ、笑顔で答えた。

「大丈夫だよ、ぜんぜん」

「瑞樹、無理してない?」

彼は本当に心配そうに私を見つめた。

「無理はしてないよ」

私を尊重して思いやってくれる、その気持ちが嬉しくて。

たがら、正直に伝えなきゃと思った。

「柊とだったら大丈夫かなって思えて。なんか……どんな感じだろうって知りたくなった、というのもあったりして……」

(そのきっかけは少々言いづらいのだけど……)

「実はね、デュオの一体感が衝撃的だったっていうのが、私にとってはすごくあって」

ついに白状してしまった、みたいな……そんな心持ちで、やや上目遣いで彼を見る。

「僕も」

「え?」

「僕も同じこと思ってた。もちろん、演奏中それで頭がいっぱいだったわけでは決してないけど」

ちょっと決まり悪そうに笑う彼がやっぱり可愛い。

「なんていうの、このさらに向こう側ってどんなだろう的な。そんなことを、僕はけっこう真剣に考えてしまった」

「わかる!」

まさかのタイミングで意気投合するふたり(?)

「まあ、瑞樹と“したい”と思ったというのが、僕の偽らざる本音ということで」

「その……同じく、ということで……」

ちょっと照れながら、顔を見合わせふふふと笑う。

そうして、彼は“心から”という感じで、しみじみと言った。

「なんか、すごい嬉しい」

(柊……)

「すごく信頼してくれているんだなって。なんだろう、いきなり自信持てちゃいそう」

(ああ、この人の笑顔はどうしてこんなに愛くるしいのだろう)

私はしがみつくように、横から彼に抱きついた。

「抜群の信頼度でモテモテなんだから。あ、私の中ではだけど……なんかごめん」

「ううん、瑞樹にモテモテならそれで。というか、他の人にいくらモテたとしても、瑞樹にモテなぎゃ意味がないもの」

彼は私の髪に優しくキスをしてくれた。

(ああ、この感覚ってなんだろう?)