貴方と奏でる夜想曲 貴女に奏でる小夜曲

つまらないも何も、それは私の最大の関心事、なわけだけで――!

「聞いても、いいの?」

「シライシに聞いてほしいんだよ」

(私に聞いて欲しいって……どうして?)

クロカワが語ったのは、決して歴代彼女のプロフィール紹介などではなかった。

「僕の恋愛がダメになっちゃう理由って、何だったと思う?」

「えっ」

(いきなり質問!?)

わからない、というのが率直なところだけれど。

私はどうにかそれらしい理由を捻り出してお答えした。

「仕事が忙しすぎてかまってあげられなくて、淋しい思いをさせちゃった、とか?」

「まあ、それもあっただろうね。とくに専攻医時代はあり得ないくらい忙しかったし」

(センコウイ???)

いまいちビンときていない様子の私にクロカワが補足をする。

「専攻医っていうのは、僕の場合は眼科の専門医を目指して頑張っていた頃だね」

医学部卒業で得られるのが、国家試験の受験資格で、合格して授与されるのが医師免許。

さらに、2年間の初期研修を終えることで、ようやく保険診療ができる資格が与えられ、そこから先が専攻医。

“眼科医です”とか“外科医です”とか、胸を張って言えるのは、無事に専門医の資格が取れてから、みたいな?

「じゃあ、クロカワは眼科の専門医ということ?」

「一応ね」

「はあー、すごいんだね」

長い努力の積み重ねに、私は心から敬服した。

「普通だよ。今だって、まだまだ研鑽を積んでいる途中だもの、って……話がそれちゃったけど」

クロカワがやれやれと苦笑いして、話を元へ戻す。

「僕がフラれる理由というのはね――」

紅茶を一口飲んで、ふぅと一息ついて、彼は言った。

「“男の子って思えなくなっちゃった”って」

(えっ……)

「“あなたとは友達でいるのがいいみたい”ってね」

一瞬すごく驚いたけど、すぐさまそれ以上に納得して、そして――。

(クロカワの気持ちが痛いほどわかるよ……)

私は、そのとき彼が抱いたであろう悲しみに、深くふかく共感した。

だって、私はそれを身を持って知っているから。

「僕もまあ、自業自得いうか。まったく非がないわけでもなくて」

クロカワは淡々と穏やかに続けた。

「自分を好きになってくれた人なら、きっと自分も同じように好きになれるはず、みたいに。そんなふうに、希望的観測で付き合いはじめたりするもんだから」

「わかる!わかるよ!」

何これ私の話?って思うくらい大共感。

私は思わず力いっぱい語った。

「自分なんかを好きになってくれて、って。その気持ちに応えられる気がして、応えたくなっちゃうんだよね。でもさ、実は案外、相手はこっちの表面上しかみていなかったりして。それこそ、大部分が希望的観測っていうか」

「で、結局はイメージと違った、と。なんか、勝手にされていた期待を、無意識に裏切りつづけて破局、みたいな?」

「そう!それ!」

私の場合は、上品なお嬢様を期待されるパターン。

実際は、負けん気が強いほうだし、ときにはケンカ上等の頑固者。

だからって、猫かぶりに騙されたなんて言われる筋合いはない。

ひとは誰しも様々な要素をもっていて、そのそれぞれを、ときどきに応じて、強く出したり、弱めたり。

そうして自己プロデュースしながら、社会で生きているのだもの。

私は男性の気を引くために、自分を偽ったりはしない。

お嬢様も私なら、意外とケンカっぱやい私も私。

なのに、勝手に決めつけられて、勝手に期待されて、勝手に失望されて……。

「とはいえさ、よく考えもしないでホイホイ付き合い始める僕も僕、なわけだよ。やっぱり」

「それなー。でもさ、私は自分に自信がないから、好きって言われると舞い上がっちゃって」

「僕も。しかも自分に都合よく“僕の理解者が現れた!”くらいの解釈までしちゃう」

「そう思いたいから、思っちゃうんだよねえ」

「そうねえ」

ひとしきり話して、二人で顔を見合わせ苦笑い。

「もう、私たち似すぎじゃない?」

「本当にね」

ふと降りる、穏やかな沈黙。

あらためて思う。

私は彼のことが好きなのだと。

だって、彼はもう私にとって友達のひとりなんかじゃないから。

かけがえのない、たったひとりの特別なひとだから。

だから、勇気を出して伝えるんだ。

「あの――」

「お店で会ったのって、モモセさんとアオトさん? 違う?」

「えっ」

(どうして? なんで?? クロカワがふたりの名前を知ってるわけ???)