大きなトラブル等もなく、2曲目も3曲目も好評を博し、アンコールのアザラシヴィリの「ノクターン」で、コンサートは無事終了した。
最後まで、私の角は生えたまま……。
自分でもアホだと思う。
だって、クロカワが生やしてくれた角だし(?)とか、まるで意味不明だもの。
(ほんっともう、どんだけ好きなわけ……)
「はーい、記録用の写真撮影しますので。集合してくださーい」
瑠璃さんの声がけに、楽器を持った先生方が集合する。
向かって左から、濱島先生、西岡先生、松尾夫、保阪先生、クロカワ。
(へえー、やっぱり楽器の並び順なんだー)
そんなふうに感心していると“記録係”に叱られた。
「ほらほら、そこの野獣化したヒロインも!ちゃっちゃと並ぶならぶ」
(ひぃぃっ!てか、野獣化って……)
私は慌てて駆け寄ると、クロカワの隣ではなく真ん前に立った。
「はい、クロカワの可愛さが“100”上がった」
ちょっと背伸びして、彼の頭に再びカチューシャを装備。
(野獣化完了、なんてね)
もっとも、彼は肉食とは無縁の草食系にしか見えないけれど。
ただ、物語に出てきたあの心優しい野獣とは、重なるところがあるような、ないような?
「僕、せっかく人間の姿に戻れたのに」
「野獣のクロカワも“可愛い”よ」
(クロカワがいつも私に言ってくれる台詞を、今日はそのまま私が言うよ)
仕返し、ではなくお返しに。
瑠璃さんの指示に従って何枚か写真を撮られたあと、驚くことが起きた。
「「サイン、ください!!」」
「……へ?」
クロカワと私の前に現れたのは、カラフルなペンとスケッチブックを持った少女たち。
確か、一番前に座っていた女の子たちだと思う。
歳は小学校低学年くらいだろうか?
(そうか、きっと彼女たちがリクエストをくれた“お姫様”だ!)
「とってもステキでした!」
「カッコよかったです!」
(か、輝く瞳が眩しいよっ)
「あ、ありがとうございます」
私がたいへん恐縮しながらお礼を言い、クロカワも一緒に頭を下げる。
ほんとう、喜んでいただけたのなら何よりだし、こちらこそ感謝感激なのだけど。
でも、残念ながらサインなんてたいそうなものは、もちろん持ち合わせていないわけで。
宅配便の受取でハンコが見当たらないときに書くアレとは絶対に違うし(当たり前)。
困ってクロカワを見上げれば、同じように「どうしようね」と微笑み返される始末。
けれども、カラフルペンをヒントに、私はいいことを思いついた。
(楽しくて、可愛くて、記念になるもの)
「スケッチブックとペン、お借りしますね」
うかがったお名前、日付、コンサートに来てくれたことへの感謝のメッセージ。
そして、野獣クロカワとシライシの似顔絵。
もちろん、可愛さ特盛で。
シライシは檸檬色のワンピースを着せて、ベルベルさせた。
「サインとはちょっと違いますけど、記念になれば……」
出来上がったそれを遠慮がちに差し出すと、姫たちは思いのかお気に召してくださった。
「「ありがとうございます!!」」
「こちらこそ」
(よかった、喜んでもらえて)
お家の人たちに嬉しそうにスケッチブックを見せに行く後ろ姿に安堵する。
「シライシにあれほどの絵心があったとは」
「器用貧乏と笑ってくださいな」
「笑わないよ。絶対素敵な才能だもの」
そう言いつつクロカワが笑い、私も笑う。
「もう、何この会話」
「午前中のおさらい、みたいな?」
クロカワはすっかり馴染んだ野獣装備を解除すると、おもむろに言った。
「で、ご褒美リクエストは決まったの?」
「いいの?」
ブローチもいただいたくせに、強欲なのはわかっている。
それに、クロカワがこうして気前よく言ってくれることもわかっていた。
だから、催促する気まんまんだったし。
ほんとう、狡猾だって自分でも思う。
けど、このお願いだけは諦めるわけにはいかないから。
「僕にできることなら、なんなりと」
(クロカワ……)
その優しい微笑みに、胸がきゅーっと切なくなる。
私は絞り出すようにして切り出した。
「……デュオ」
「え?」
「クロカワとね、弾きたいの」
「僕と?何を?」
「ノクターン、アザラシヴィリの」
彼が私のために弾いてくれたあの曲を。
「だめ、かな……?」
「だめなわけないじゃない。でも、そんなことでいいの???」
「うん。それがいいの」
だって、もう決めたから。
私の想いを、言葉と音で伝えようって。
こんなに好きになってしまったんだもの。
好きが積もって大きくなって、特別になって、かけがえのない唯一のものになってしまった。
その“好き”を1人でひっそり抱えるのは、もう苦しくて。
分かち合えないのなら、悲しいけれど手放すしかない、と。
大切だからこそ、中途半端ではいられない。
男女の友情はあると思う。
“いい友達”という軽やかな関係だって、それはそれで素敵と思う。
でも、私の好きは“恋愛の好き”だと気づいてしまったから。
だからやっぱり“いい友達”ではいられない。
だって、今の私じゃあ、彼に好きな人ができても、その恋を応援なんてできないもの。
友達の恋を応援できないなんて、そんなの友達の資格はないから。
(でも……)
正直、彼の反応が怖くて仕方がない。
“今のこの関係がよかったのに”。
“そんなつもりはなかったのに”。
困惑されるかも? 拒絶されるかも? がっかり、させてしまうも……?
それを考えると、とてもとても苦しくて辛い。
でも、一番の女友達を目指すこともできないのだから仕方がない。
“ぬるま湯”の関係がかえって辛くなってしまったのだから仕方がない。
それに、私は過去の恋愛でじゅうぶん学んでいるはずだから。
“あのとき想いを伝えていれば”という後悔ほど、やりきれないものはない、と。
“いい友達”を演じ続ける覚悟がないなら、どのみち別の覚悟を決めるしかないのだもの。
潔く想いを伝える勇気を出すのか、それとも……。
たとえ今までの関係が壊れてしまうとしても。
恋と一緒に“いい友達”まで失ってしまうとしても。
私は自分から一歩踏み出すことを選びたい。
(ほんとう、恋ってどうしようもない……)
私の想いをのせた音が、彼の心にどうか響いてくれますように――。
最後まで、私の角は生えたまま……。
自分でもアホだと思う。
だって、クロカワが生やしてくれた角だし(?)とか、まるで意味不明だもの。
(ほんっともう、どんだけ好きなわけ……)
「はーい、記録用の写真撮影しますので。集合してくださーい」
瑠璃さんの声がけに、楽器を持った先生方が集合する。
向かって左から、濱島先生、西岡先生、松尾夫、保阪先生、クロカワ。
(へえー、やっぱり楽器の並び順なんだー)
そんなふうに感心していると“記録係”に叱られた。
「ほらほら、そこの野獣化したヒロインも!ちゃっちゃと並ぶならぶ」
(ひぃぃっ!てか、野獣化って……)
私は慌てて駆け寄ると、クロカワの隣ではなく真ん前に立った。
「はい、クロカワの可愛さが“100”上がった」
ちょっと背伸びして、彼の頭に再びカチューシャを装備。
(野獣化完了、なんてね)
もっとも、彼は肉食とは無縁の草食系にしか見えないけれど。
ただ、物語に出てきたあの心優しい野獣とは、重なるところがあるような、ないような?
「僕、せっかく人間の姿に戻れたのに」
「野獣のクロカワも“可愛い”よ」
(クロカワがいつも私に言ってくれる台詞を、今日はそのまま私が言うよ)
仕返し、ではなくお返しに。
瑠璃さんの指示に従って何枚か写真を撮られたあと、驚くことが起きた。
「「サイン、ください!!」」
「……へ?」
クロカワと私の前に現れたのは、カラフルなペンとスケッチブックを持った少女たち。
確か、一番前に座っていた女の子たちだと思う。
歳は小学校低学年くらいだろうか?
(そうか、きっと彼女たちがリクエストをくれた“お姫様”だ!)
「とってもステキでした!」
「カッコよかったです!」
(か、輝く瞳が眩しいよっ)
「あ、ありがとうございます」
私がたいへん恐縮しながらお礼を言い、クロカワも一緒に頭を下げる。
ほんとう、喜んでいただけたのなら何よりだし、こちらこそ感謝感激なのだけど。
でも、残念ながらサインなんてたいそうなものは、もちろん持ち合わせていないわけで。
宅配便の受取でハンコが見当たらないときに書くアレとは絶対に違うし(当たり前)。
困ってクロカワを見上げれば、同じように「どうしようね」と微笑み返される始末。
けれども、カラフルペンをヒントに、私はいいことを思いついた。
(楽しくて、可愛くて、記念になるもの)
「スケッチブックとペン、お借りしますね」
うかがったお名前、日付、コンサートに来てくれたことへの感謝のメッセージ。
そして、野獣クロカワとシライシの似顔絵。
もちろん、可愛さ特盛で。
シライシは檸檬色のワンピースを着せて、ベルベルさせた。
「サインとはちょっと違いますけど、記念になれば……」
出来上がったそれを遠慮がちに差し出すと、姫たちは思いのかお気に召してくださった。
「「ありがとうございます!!」」
「こちらこそ」
(よかった、喜んでもらえて)
お家の人たちに嬉しそうにスケッチブックを見せに行く後ろ姿に安堵する。
「シライシにあれほどの絵心があったとは」
「器用貧乏と笑ってくださいな」
「笑わないよ。絶対素敵な才能だもの」
そう言いつつクロカワが笑い、私も笑う。
「もう、何この会話」
「午前中のおさらい、みたいな?」
クロカワはすっかり馴染んだ野獣装備を解除すると、おもむろに言った。
「で、ご褒美リクエストは決まったの?」
「いいの?」
ブローチもいただいたくせに、強欲なのはわかっている。
それに、クロカワがこうして気前よく言ってくれることもわかっていた。
だから、催促する気まんまんだったし。
ほんとう、狡猾だって自分でも思う。
けど、このお願いだけは諦めるわけにはいかないから。
「僕にできることなら、なんなりと」
(クロカワ……)
その優しい微笑みに、胸がきゅーっと切なくなる。
私は絞り出すようにして切り出した。
「……デュオ」
「え?」
「クロカワとね、弾きたいの」
「僕と?何を?」
「ノクターン、アザラシヴィリの」
彼が私のために弾いてくれたあの曲を。
「だめ、かな……?」
「だめなわけないじゃない。でも、そんなことでいいの???」
「うん。それがいいの」
だって、もう決めたから。
私の想いを、言葉と音で伝えようって。
こんなに好きになってしまったんだもの。
好きが積もって大きくなって、特別になって、かけがえのない唯一のものになってしまった。
その“好き”を1人でひっそり抱えるのは、もう苦しくて。
分かち合えないのなら、悲しいけれど手放すしかない、と。
大切だからこそ、中途半端ではいられない。
男女の友情はあると思う。
“いい友達”という軽やかな関係だって、それはそれで素敵と思う。
でも、私の好きは“恋愛の好き”だと気づいてしまったから。
だからやっぱり“いい友達”ではいられない。
だって、今の私じゃあ、彼に好きな人ができても、その恋を応援なんてできないもの。
友達の恋を応援できないなんて、そんなの友達の資格はないから。
(でも……)
正直、彼の反応が怖くて仕方がない。
“今のこの関係がよかったのに”。
“そんなつもりはなかったのに”。
困惑されるかも? 拒絶されるかも? がっかり、させてしまうも……?
それを考えると、とてもとても苦しくて辛い。
でも、一番の女友達を目指すこともできないのだから仕方がない。
“ぬるま湯”の関係がかえって辛くなってしまったのだから仕方がない。
それに、私は過去の恋愛でじゅうぶん学んでいるはずだから。
“あのとき想いを伝えていれば”という後悔ほど、やりきれないものはない、と。
“いい友達”を演じ続ける覚悟がないなら、どのみち別の覚悟を決めるしかないのだもの。
潔く想いを伝える勇気を出すのか、それとも……。
たとえ今までの関係が壊れてしまうとしても。
恋と一緒に“いい友達”まで失ってしまうとしても。
私は自分から一歩踏み出すことを選びたい。
(ほんとう、恋ってどうしようもない……)
私の想いをのせた音が、彼の心にどうか響いてくれますように――。



