〇昼休み 体育館裏
六花、拓海によって人気のない殺風景な体育館裏に連れて行かれる。
体育館裏には、細い通路とフェンスがあるだけ。
六花「ちょっと、拓海! 何がしたいの⁉」「私の話、聞いてる⁉」
焦った顔で叫ぶ六花に対して拓海は仏頂面で無視を決め込んでいる。
拓海は少しうつむいており、目の部分が前髪の影で隠れている状態。
六花「ねえ、一言でもいいから返事をしてよ! ねえってば!」
拓海、立ち止まるなりバッと六花から手を離す。
六花「拓海……?」
戸惑いながらも、おそるおそる拓海の顔をのぞき込もうとする六花。
うつむいていた拓海がパッと顔を上げて六花を睨みつける。
拓海「……綾瀬。お前、二股してたのかよ?」
六花「えっ?」
おどろきで目を見開く六花。
拓海「今朝、柊がお前と付き合ってるって宣言したのを見たんだよ」
六花、頭を抱える。
六花・心の声(見られてたんだ……。ってか拓海、私が二股してることにしたいの⁉)(……なんか、腹立ってきた)
六花「誤解だよ」
顔を上げて、きっぱりと拓海に言い放つ六花。
六花「柊くんとは付き合ってないし、二股すらしてないから」
拓海「はあ⁉ ろくに絡みのなかった柊と、昨日の今日で付き合ってるだなんておかしいだろ⁉ 俺とあいつで同時進行してたとしか思えない!」
六花「だから、別れるまで私は拓海一筋だったんだってば!」
拓海「ハッ、どうだか。必死な言い訳お疲れ様」
鼻でフッと笑いながら、六花に軽蔑の眼差しを向ける拓海。
ふるえる手で拳を握る悔しそうな六花。
六花「拓海こそ、1学期が始まってすぐ転校してきた香月さんとベタベタしてたよね」
拓海「なっ……」「それは、久しぶりに繭と会って、テンションが上がったからで……」
六花「そっちこそ言い訳に必死じゃん」「そりゃそうだよね。私そっちのけで、二人で楽しくイチャイチャしてたもんね」
不敵な笑みを浮かべる六花。
拓海「うるせぇ、調子に乗りやがって……!」
拓海、六花を体育館の壁に向かって突き飛ばそうと手を伸ばす。
だが、拓海の手が六花に触れる寸前。六花に向かって大きな手が伸びてきて、ものすごい力でぐんっと後ろに引っ張られる。
六花を突き飛ばそうとしたはずの拓海。だが、突然現れた何者かにおどろき、体のバランスを崩す。その後、ガシャンと激しい音を立てて背中からフェンスにぶつかる。
巧み「ぐああっ!」
六花・心の声(この匂い、この体温……。今のって……)
六花がハッとして顔を上げると、自分を後ろから抱きしめている結都と目が合う。
結都「六花、大丈夫?」「怖くない? 痛くなかった?」
六花の顔を心配そうに覗き込む結都。
六花「あ、うん。平気……近いな」
結都の顔の近さにたじたじとする六花。
拓海「いった……。何しやがる……って、柊⁉」
痛みに顔を歪まさせる拓海。
結都「藤原拓海くんだっけ? 僕の彼女に乱暴な真似をしないでくれるかな?」
拓海「柊っ⁉」
突然現れた結都に驚いて目を見開く拓海。
結都「六花のこと、『最初から好きじゃなかった』のにまだ未練があるわけ?」※余裕たっぷりの勝ち誇った黒い笑みを浮かべる結都。六花を抱きしめたまま拓海を見下ろす構図(拓海から見たアングル)。
結都「今すぐここから消え失せてくれる?」
表情から笑顔が消え、威圧感と畏怖を感じる表情へ。静かに激怒しているのが伝わる感じで。
拓海、恐怖でぞっとした表情へ。結都の威圧感にたえられず、一言も発さずにバタバタと逃走。
結都、表情を優しい顔に一変させ、六花を心配する表情へ。
結都「六花、大丈夫⁉ ケガはない?」
六花「あ、うん。大丈夫……」
六花・心の声(切り換え早っ! でも、本気で私を心配してくれているんだな……)
結都「ああ、よかった……」
ほっと胸をなで下ろす結都。
六花・心の声(まったく、大げさなんだから)(それにしても……)
六花「柊くん、何でここに私がいるってわかったの?」
結都「え?」
六花「今朝も、私の家に来てたよね? 場所なんて一度も教えてなかったのに」
結都「ああ、それはね……」
結都、制服のスラックスのポケットからスマホを取り出す。
結都「そんなの、大事な彼女がどこにいるのか、いつでも確認できるように、アプリで居場所を共有してるからね」
結都、スマホの画面を六花に突き付ける。それはGPSアプリで、六花の現在地を正確に映し出している(『六花』と名前がついたピンが立っている)。
六花「怖っ! いつの間に……消して!」
結都「えぇ……、困るよ」「六花の安全のためなのに」
結都、困ったような、どこか名残惜しそうな顔をする。
六花「消して。今すぐに」
冷たく吐き捨てる六花に、慌てて消す結都。
六花、ほっとため息をつく。
六花「それにしても……何で私のことが好きなの? これまで特に関わったことないよね?」
結都「初めて会った5年前からかな」
六花「5年前……ってことは、小6⁉」「私、そのとき柊くんに会った覚えないけど?」
結都「そりゃそう思うよね。前の僕と、今の僕は全然違うし」「でも、こうしたらわかるかな?」
結都、真ん中分けの前髪をおろして、メガネをかける。
結都「これで思い出せた?」
六花、驚愕の表情を浮かべる。
モノローグ『覚えてる』『私、この柊くんと会ったことがある……』