契約結婚した公爵閣下は、別邸に何かを隠している

「ダグラス!! 私を差し置いて先に屋敷に向かうなど、何を考えて……!」

 慌てたようにアラン様が応接間に入ってこられる。足音を鳴らし、眉根をしかめて声を荒らげたお姿は、今までに見たことがないご様子。私が目を瞬くと、アラン様は気まずげに咳払いをした。

「ンンッ……ただいま戻りました、エレオノール」

「おかえりなさいませアラン様。ダグラス閣下から、贈り物をいただいたのです」

「私の刺繍を奥様が気に入ってくださってな。『額に入れて飾りたい』とのお言葉を賜ったぞ」

「な、な……!」

 アラン様は言葉を失って口を開閉する。親しいと伺っていたのに、ダグラス閣下のご趣味をご存じなかったのかしら。不思議に思っていると、ふいにダグラス閣下が大きな声を上げた。

「そうそう奥様。アランの手仕事はご覧になりましたかな?」

「待て、ダグラス!!」

「いいえ、アラン様も何かお作りになられるのですか?」

「おお! それはいけない!!」

 驚きに目を見開くと、ダグラス閣下が両手を広げ、芝居がかった口ぶりで声を張る。

「ぜひともご覧いただかなければ! 勝手知ったる友の家です。ご案内いたしましょう」

 勢いよく立ち上がり、ダグラス閣下が外に足を向ける。止めようとするアラン様の肩をがっちりと抱え込み、力ずくで引きずっていく。

「待て、やめろこの、馬、鹿、力、がッ!!」

「さあさあ、参りましょうぞ!」

 快活な笑い声を上げて、ダグラス閣下がずんずんと歩いていく。壁際に控えていたヘレンと顔を見合わせる。どうしたものかと困惑しながら、ひとまず彼らについていった。