契約結婚した公爵閣下は、別邸に何かを隠している

「早く到着してしまい、申し訳ない」

「いいえ、お会いできて光栄です」

 立ち上がり快活な笑みを浮かべるダグラス閣下と握手を交わす。見上げるほどの巨躯に、威厳を感じさせるお顔つき。触れた手は分厚く、私の手の倍以上あるように感じられた。

「これを結婚祝いに贈ろうと思えば、気が急いてしまって。アランを置き去りにしてしまいました」

 席に着くなり、ダグラス閣下がローテーブルに箱を乗せる。差し出された贈り物に目を瞬き、私は頬を緩めた。

「まあ、開けてもよろしくて?」

「もちろん」

 閣下のお言葉に、可愛らしく結ばれたリボンを解き蓋を開ける。手に取り広げれば、贈られたのは見事な刺繍の施されたテーブルクロスだった。

「まあ、まあ! なんて美しいのでしょう」

 艷やかな白地に紺と薔薇色、金糸や銀糸もふんだんにつかい、緻密な柄が布に描かれている。さりげなく配置された月と薔薇が愛らしく、私は目を細めて糸をなぞった。

「こんなに見事な刺繍、めったにお目にかかれないほど。額に入れて飾りたいくらいです。とても素敵」

「ハッハッハ、そうもお褒めいただくと、なんとも面映ゆいですな!」

 ダグラス閣下が胸を張って笑う。どうなさったのか。私は驚いて閣下を見つめた。

「いや、私が縫ったのです。自分で言うのも何ですが、我ながらいい出来だと思いましてな。早くお見せしたくなり、こうして約束の時間より先に押しかけてしまいました」

「閣下のお手製なのですか……!」

 目を見開いて、刺繍とダグラス閣下、交互に視線を送る。

「やはり意外ですかな?」

「思いがけないことでした。閣下の手は、とても大きくていらっしゃるから」

「こう見えて器用なのです」

「閣下はお強い上に、繊細で優れた技巧をお持ちなのですね。尊敬いたします」

 和やかに歓談していると、大きな音を立てて勢いよく扉が開かれた。