契約結婚した公爵閣下は、別邸に何かを隠している

 まあまあまあ、そのようなこともあるだろう。この結婚は一点の曇りもなく、政略結婚なのだ。私とて辺境伯家の娘、その辺りは弁えている。命を賭して国を守る軍人が、生きる縁として好い人のひとりやふたり、抱えることもあるだろう。『生命』を感じる必要性については聞きかじっている。いい年をした殿方が会ったこともない婚約者に操を立てるのは、難しいことなのかもしれない。

 何の問題があろうことか。彼も私も、この結婚の重要性を理解している。だから私は正しく妻として下にも置かない待遇を受けているのだから。

「ですがエレオノール様……! あんまりではございませんか!」

「まあまあヘレン、良いではないの」

「何をおっしゃるのです!」

 動じぬ私に代わって、侍女のヘレンがご立腹だ。他に人がいないからと、私の髪を結いながらぷりぷりと怒り続ける。

「ご覧くださいこの絹糸のように艷やかな銀の御髪、夢見るような薔薇の瞳! 陶器のようになめらかな白い肌……私達の大切なお姫様を前に、浮気など!!」

「殿方の浮気はままあるものだと、指南書で学んだではないの」

「恋愛小説ではないですか! それに浮気をするのは後に破滅する男でした!!」

「まあ、破滅は困り事ね。……でもねヘレン、アラン様が隠していらっしゃることを、私が目敏く見つけてしまったせいなのよ」

 夜、何の気なしに窓の外を眺めて、アラン様のお姿を見かけたのだ。まさかこんな時間にお仕事に向かわれるのだろうか、と案じ、夜ごと外を確認すれば毎晩のこと。もしや向かわれる先に何か、と好奇心を抱いてしまい、昼間ヘレンとふたりで散策して別邸を見つけてしまった。とても小さな、可愛らしい家を。

 あの別邸は何か、と使用人に尋ねれば、歯切れ悪く答えをはぐらかされた。それとなくアラン様に別邸の話を振ってみると、「物置き小屋ですよ」と笑顔でいなされた。以後、私が庭園に出るときは、別邸の方に向かわないよう使用人が注視している。ヘレンが同僚たちに問いかけても、答えが得られないらしい。そこで私はピンときたのだ。参考にと読んだ指南書が、私に答えを教えてくれた。