契約結婚した公爵閣下は、別邸に何かを隠している

「そもそも、どうして隠そうとなさったのです?」

 ソファーに腰掛け、向かいの一人掛けソファーに座ったアラン様に問いかける。私の左右は可愛らしいぬいぐるみで埋まっていた。

「その、気味が悪いでしょう。成人した男の、しかも軍人が、レース編みなど」

 いえそんなことは、と言おうとした瞬間、アラン様が深刻そうに呟く。

「現に私はダグラスが刺繍している姿を、薄っすら気味悪く思いながら眺めています」

「まあ、まあ」

 あまりの物言いに私は目を瞬いた。

「大きな体を縮めて、大きな手でちまちまと針を動かすお姿は、お可愛らしいだろうと思いますけれど」

「……私は本当にいらぬ気を回しすぎていたようです」

 そう言って、アラン様は困ったように笑った。

「気にされるご様子がないので散策中にたまたまこの別邸を見かけたのだろうと思っていたのですが、私がここに通っていることをご存じだったのですね?」

「ええ。夜ごと足繁くお通いになっていると」

 私の返答に、アラン様は目を瞑って天を仰ぎ、大きな息を吐かれた。それから両手で顔を覆い俯いてから、ゆっくりと顔を上げ、真剣な眼差しで私を見つめる。

「私は誓って浮気などいたしません。私が欲しているのは唯一貴方のお心だけです」

 視界の端で、ヘレンが気まずそうな顔をする。私も申し訳なくなって、アラン様に向かって深く頭を下げた。

「いらぬ誤解をいたしました。申し訳ございません」

「いいえ、ダグラスの言う通りでした。私が愚かだったのです」

 アラン様が眉を下げ、目元を赤らめて柔らかく微笑む。

「結婚式で、あなたをひと目見たときに心奪われたのです。親しみを感じていた女性が、夢見るようなお姿で現れて……肖像画よりもずっと美しい、なんと可憐な——まるで陶器人形のようだ、と」

 奇しくも同時に、『肖像画よりもずっと美しい』と感じていたのだ。そしてそれが、アラン様にとって恋に落ちるきっかけとなった——あの見開かれた瞳を思い出し、その理由を知り、今になって落ち着かない気持ちになる。

「元より手紙の交流を好ましく感じていました。ひと目見るなり魅了され、言葉を交わせば落ち着いたお人柄に日に日に想いが募っていく」

「さ、左様でございますか」

「……打ち明けるより先に、好いていただこうと思ったのです。想い合った後であれば、痘痕(あばた)笑窪(えくぼ)になるのではないか、と」

 手紙の交流を好ましく感じていたのも同じこと。気恥ずかしげに頬を染めるアラン様がお可愛らしくて、つい頬が緩んでしまう。心が浮き立つ。抑えきれない笑顔を浮かべ、アラン様を見つめた。

「私は、今のアラン様をとても好ましく思います」