夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



アルバムを抱えたまま、僕は狂ったように階段を駆け下りた。


一刻も早く、この家を、この偽りの静寂を抜け出したかった。
けれど、玄関のドアを開けようとした瞬間、外側から扉が押し開かれた。


「⋯⋯佑介。どこへ行くつもりだ」


仕事から戻った父さんが、そこに立っていた。
僕の手にある埃を被ったアルバムと、赤く腫らした僕の目を見て、父さんの表情が苦痛に歪む。


「どいてよ、父さん。僕は、蒼に会いに行く」


「場所も知らないのにか? 彼女はもうここにはいない。八年前、お前の前から消えたんだ」


「消したのは父さんたちだろ! どうして隠したんだ! 彼女が生きてるって、どうして⋯⋯!」


僕は父さんの胸ぐらを掴まんばかりに叫んだ。


「お前を救うためだった! あの時、蒼ちゃんに『誰?』と言われたあの日から、お前は食事も摂らず、ただ虚空を見つめるだけの置物になった。医者からは、このままでは心が死ぬと言われたんだぞ!」


父さんの怒鳴り声が玄関ホールに響く。
それは、僕を守ろうと必死だった一人の父親の、悲痛な叫びでもあった。


「それでも⋯⋯それでも、教えてほしかった。僕は、彼女を『なかったこと』にして生きていくなんて、そんなの真っ平だ!」


僕は父さんの腕を振り払い、外へ飛び出そうとした。
けれど、足に力が入らず、そのまま冷たいタイルの上に崩れ落ちた。